現実が消えるとき Serenity

 マシュー・マコノヒーとアン・ハザウェイのビッグ・スターが顔を合わせるネオ・ノワール調のスリラー。嫉妬深い富豪の夫の暴力に耐えきれず、別れた元夫に殺人を依頼する妻。かなりありそうな話で新鮮味には欠けるが脚本・監督が「Locke」(オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分、2013年)のスティーブン・ナイトとなると普通で退屈なわけはない。
 物語の進行中、流れに逆らうように違和感のある挿入シーンに出くわすときがある。その「はてな」が伏線となり、物語に全く別の背景が浮かび上がってくる、そんな構図の作品だ。演技派で知られるダイアン・レーン、ジャイモン・フンスーらが共演。
 ベイカー(マコノヒー)は良好な釣り場が近くに広がるカリブのある島で金持ち相手にフィッシング・ツアーをビジネスにしている。もちろん自分の趣味も兼ねた一石二鳥の仕事で、数回にわたって遭遇している数百キロ級のマグロ「ジャスティス」を捕まえるのが夢だ。そのため客そっちのけでジャスティスを追いかけ、客を怒らせることもしばしば。
 そんなところに数年ぶりに元妻カレン(ハザウェイ)が現れる。再婚相手のフランク(ジェイソン・クラーク)から日常的に暴力を振るわれ、これ以上我慢できないとベイカーに泣きついたのだ。釣り好きのフランクを旅に連れ出しベイカーの船に乗せ、カレンが酒をたっぷり飲ませたところでサメがうようよする海に突き落とす、というのがカレンの筋書きだ。報酬は1000万ドル。
 ベイカーは気乗りしないがフランクの暴力がそのうち、ベイカーの息子のパトリックにも及んでくると聞き思案する。しかしカレンの筋書きも計画通りには運ばず紆余屈折するなかで、物語は現実から逃避した世界に入り込んでいく。
マコノヒーはロマンティックコメディーで人気を上げ、シリアス系にジャンルをシフトし、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」(13年)でアカデミー主演男優賞を受賞。しかしその後はハズレも多く、本作は挽回のチャンスだったが一歩及ばず。「普通で退屈なわけはない」のナイト監督への期待も不完全燃焼気味の感あり。1時間46分。R。(明)

■上映館■
AMC Empire 25
234 West 42nd St.
AMC Loews 34th Street 14
312 W. 34th St.
AMC Lincoln Square 13
1998 Broadway