編集後記

編集後記

 みなさん、こんにちは。シンガーソングライターのあがた森魚さんがこのほど来米し、ニューヨークのイーストビレッジにある教会でソロコンサートを行いました。もとまろの「サルビアの花」をアレンジして歌ったあと稲垣タルホの世界観も語りで披露しながら、1972年の自身のデビュー曲「赤色エレジー」を熱唱しました。「赤色エレジー」は、今から半世紀以上も前にアニメーターのような画家を目指して上京した若き幸子と一郎の同棲生活を描いた林静一の漫画で、月刊漫画雑誌「ガロ」に連載された作品です。あがたさんはその二人のエレジーな生活に感動してこの曲を作ったそうです。


 そしてボブ・ディランに憧れて若き日にニューヨークに来たあがたさんは、ニューヨークにも幸子と一郎のような若き日本人の画家やアーテイストたちがいることを知ることになります。コンサート当日は、かつてニューヨークで幸子や一郎を地で生きたような在留邦人のアーティストたちが今もなお健在とばかりに大勢詰めかけました。聞き入っていた人からは「まるで同窓会やね」と言った声も聞かれたほどでした。そしてあがたさんは北海道小樽市で育った少年時代の担任教師、佐藤啓子先生を敬う歌を披露することも忘れませんでした。1972年といえば、私も同じく北海道の北見市にいて当時は16歳。小学校4年生の時から「ガロ」を自宅で定期購読していた私は、もちろん林静一も、同時代の佐々木マキ、つげ義春や忠男のファンでしたからあがたさんのデビュー当時の歌声もしっかり覚えていますし、あれから50年以上経っても同じ歌声でNYで数年ぶりに聞けた「赤色エレジー」はアメリカに居ながらの原点回帰のような体験でした。


 あがたさんは「僕がニューヨークにひかれるのは、やはり強くて大きな、錯綜する近代がそこにぎっしりあるからです。僕の感受性では、自分が小学校時代に過ごした小樽の街と同じなのです。近代の栄光と錯綜を強く内包し、それでもそれは、未来への強い希望を秘めていることが強く感じ取れるからです。こんなに魅力的な場所は僕にはそうそうないのです。ですので、今後とも様々なトライをしていきたいです」と熱く語ります。黄昏時の少し影を落としたイーストビレッジに70年代の東京がオーバーラップしたコンサートでした。今週号の16面で掲載しています。ちなみに、あがたさんが歌った「サルビアの花」で1972年にデビューしたもとまろは、私の青学大の少し先輩お姉さんトリオになります。お目にかかったことはありませんが、ご健在だといいのですが。それではみなさん良い週末を。(週刊NY生活発行人兼CEO、三浦良一)