パワー・オブ・マネー 新・貨幣入門

お金が持つ権力を解析

ポール・シェアード・著
早川書房・刊

 為替相場の変動が暮らしの実感として迫る都市・ニューヨークにいると、日々のニュースの背後で働く「貨幣の仕組み」を改めて考えたくなる。円安が長期化するなか、その感覚は一段と強まっている。『パワー・オブ・マネー 新・貨幣入門』は、こうした疑問に応える貨幣の基礎教養書である。経済の専門知識を前提とせず、貨幣を歴史・制度・政治の接点として捉える姿勢が本書の特徴だ。

 著者が示す中心的な視点は、「貨幣は中立的な交換手段ではなく、社会を動かす制度そのものだ」というものである。米ドルが依然として国際金融の中心にあり、FRBの発表一つで世界が揺れ動く。その仕組みを間近に見るニューヨークの読者には、本書の議論はより実感を伴って響くだろう。税制度、中央銀行の独立性、国家の信用といった要素がどのように貨幣価値を支えてきたのか——豊富な事例を通じて整理されていく。

 興味深いのは、貨幣の信頼を「国家という枠組みへの信任」として位置づける視点だ。市場の期待や金利差だけでは説明できない、制度的な裏側があることを丁寧に描き出す。円安・円高の報道を数字の上げ下げとして消費するだけでは見えてこない背景が、本書によって立ち上がる。情報があふれるニューヨークの環境にあっても、その根底にある構造を学ぶ機会は案外限られており、本書は視野を整える助けとなる。

 文章は平明で、専門用語も慎重に噛み砕かれているため、経済書に抵抗のある読者でも読みやすい。一方、深い議論を求める向きには物足りなさもあるだろう。しかし、入門書としての役割を踏まえれば、複雑な貨幣の世界へ向かうための「基盤」を提供するという点で、十分に意義のある構成となっている。本書日本語版の発行に際し、オリックス・シニア・チェアマンである宮内義彦氏が本の帯でこう書いている。「お金、貨幣の底知れぬ機能。ビジネスに関わる誰もがその力を再認識できる新教科書だ」と。

 貨幣の成り立ちを理解することは、世界の動きを読み解く力を得ることでもある。国際金融都市NYで暮らす私たちにとって、本書はニュースの背後にある構造を捉えるための確かな道しるべとなる。日常の前提となっている「お金」の正体を見直すきっかけとして、手に取る価値のある一冊である。著者は若き日に大阪大学に1年間客員研究員として滞在し、1992年には日本銀行で外国人客員研究員として過ごした知日派でもある。  (三浦)