がん患者が答える人生相談

幡野広志・著
幻冬舎・刊

 がん患者としての素直な思いをブログやSNSで発信する写真家、幡野広志さん。写真家として独立した2011年に結婚、16年に長男が誕生するもその翌年の17年、34歳で血液がんの一種である多発性骨髄腫を発病。半年ほどひどい腰痛に悩まされて病院を回っていたが原因がわからず、その痛みが骨に転移したがんによるものだとわかったときには、痛みの原因が判明したことにほっとしたという。同時に妻と幼い息子のことを思ってひと晩泣いた。さらに検査結果で「完治が難しいタイプ」と診断、末期がんで余命3年の宣告も受けた。

 ある日突然、突きつけられた「余命3年」。SNSでそのことを告白すると、以来、幡野さんのもとに多くの人生相談が届くようになった。相談の内容は病気や健康のことに限らず、恋愛・不倫、人生、親子関係などさまざま。クリエイターが各自のコンテンツを発表してファンと交流するウェブメディア「ケイクス(cakes)」において、『幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。』のタイトルで掲載し、人気連載となった。本書はその中から36本のお悩み相談を収録。今年2月の発売日翌日には重版が決まるほどの反響を呼んでいるが、本人は「過大評価されすぎだ」と謙虚に受け止めている。

 人から好かれようが嫌われようが気にならないという達観した彼の回答には、読者から多くの共感と、腑に落ちるという声が挙げられている。「家庭のある人の子どもを産みたい」「親の期待とは違う道を歩きたい」「いじめを苦に死にたがる娘の力になりたい」「ガンになった父になんて声をかけたらいかわからない」、または「風俗嬢に恋をした」「売春がやめられない」「兄を殺した犯人を、できるならば殺してやりたい」など。これらの問いに対し、幡野さんはちょっとシュールなジョークとともに意見を綴っている。

 また、書籍カバーをはがすと美味しそうなフルーツパフェとカフェラテの写真が出てくる。これらはひとり旅をしているときに高知県の石摺岬と釧路の喫茶店で撮影した写真だという。実際に本を手に取った人しか見ることができない幡野さんの思い出の写真、その遊び心も素敵だ。

 なぜ、相談者たちは誰にも言えない悩みを余命数年の写真家に打ち明けるのか。本書を読む前に私が感じた疑問だが、人生相談を通して幡野さんから届く言葉は彼らにとって強いいのちのメッセージとなり得ているのかも知れない。人生はただ長ければいいというわけではなく、多くの人に影響を与え、生きた証を家族に残してゆけるなら最期のときに幸せだったと思えるのではないだろうか。

 本書を読んで思うことは、もしも彼ががんを公表していなくてもブログを読んでいれば「この人に相談したい」と思われる人なのだろうということだ。幡野さんは前述のウェブメディア「ケイクス」(有料会員制/https://cakes.mu/)で現在も人生相談を募集している。

      (高田由起子)