護身術で身を守る

 アジア系に対するヘイトクライムが全米で依然として治まらない中で、ニューヨーク日本総領事館では異例の注意喚起を在留邦人に行い、外出時の一人歩きは避けることなど呼びかけている。本紙では、路上で危険が実際に降りかかった時に、具体的に身を守るためにはどのように対応すれば良いのか、空手でニューヨークに門下生500人を抱え、セルフ・ディフェンスも教える誠道塾(中村忠会長)の師範たちにその心構えと基本的な動作について聞いた。

 同道場二代目の中村彰さんは、不審者に危害を加えられそうになった時は、まず声を出して相手の攻撃をストップさせることがセルフ・ディフェンスの鉄則だという。万が一トラブルに巻き込まれても正当防衛であることを後で立証できるからだ。

 また、同道場の師範、中村めぐみさんは女性の立場から、道路を歩いていて、もし違和感や不快感を感じたら、その通りから即座に出るか近くの店内に駆け込むことを勧めている。実際に襲われそうになった場合の反撃は、最後のオプションとし、その方法は、予め専門家にきちんと指導を受けておくことで心の準備や気構え、とっさの時の動作が可能となり、気が動転しないで冷静な行動を取ることができると話す。

(写真)護身術を披露する中村さん兄妹(2日、ミッドタウンの道場で、写真・三浦良一)

増悪犯罪から身を守る護身術を学ぶ

誠道塾空手のセルフ・ディフェンス初心者入門

まずは声で制御

 空手家でニューヨークで門下生500人を抱え、セルフ・ディフェンスも教える誠道塾(中村忠会長)の師範たちにその心構えと基本的な動作について聞いた(1面に記事)。

 同道場二代目の中村彰さんは「まず第一に、注意力散漫で、周りに注意を払わずに歩いていると隙があると思われて狙われる。頭を上げてまっすぐに前を向いて歩いていたら、ターゲットにはなりにくい。もし、そこが安全でないと思ったらその場所に居続けないことだ。道路を渡って反対側に行ってもいい。店に入るのもいい。もし安全でないと感じても、大袈裟な行動には出ないように。危険回避することを第一に考えて。

 もし、誰かが近寄ってきて何かを言い寄ってきたら声を使って。声は非常に強力だ。怖がらずに、あから様に無視するような態度は避けて、彼らに顔を向けて大声で一言「ストップ」と手を前して叫ぶこと。この行動をしていることで、トラブルに巻き込まれても後で正当防衛として証明することができる。自分を守ろうと意思表示したことを明確にしておくことだ。もし、相手に危害を加えることになったとしてもそれは、そうせざるを得なかったことになる。いきなり攻撃して殴ったりしないこと。まずは抑制を。

 声を上げて止め、ボディランゲージで制御し、それでも身を守らなくてはならない時は強いスタンスを維持すること。直立不動で立っていたら、簡単に蹴飛ばされたり、押し倒されたりする。腕を前に掲げて中腰で、足を引いて構える。

 もし、誰かが攻撃を受けているの見たら、携帯で写真を撮っているのではなく、一言「Hey! What are you doing?」と叫んで。世の中には悪人が必ずいるが、善人の方が多いことを信じて欲しい。先日のミッドタウンでのビル前で起こったアジア系女性に対する攻撃は、逮捕された犯人は母親殺しで服役していた犯罪歴のある良識の通じない人間だが、ビルの中で傍観していた3人の男性は犯人が去った後に彼女を助けることもしないでドアを閉めた。それは良識ある人間として恥ずべき行為だ。自分たちが空手をやっているのも、単に強くなるためだけではなく人間形成するため、弱いものを助けるために鍛錬している」。

  反撃は最後の手段 

 同道場師範の中村めぐみさんは「女性として、もし、私が道路で危険を感じたら、その同じ通りを歩き続けない。方向転換するか、店に飛び込む。セルフディフェンスの反撃技などを習得していても、それを使うのは最後のオプションで、走って逃げてもいいし、まずは危険を回避することが第一。心の準備や動作の基本を知らないと、そのような場面に遭遇してしまうととても不安で自分の身を守るための対処法が分からない。その意味でも、知識と体で準備ができていれば、同じ状況に直面しても、何をすればいいのかが分かっているので気が動転することはない。それが護身術を学ぶ最大のポイントだと思う」と話す。


5月にミッドタウン本部完成



誠道塾の中村会長(中央)と二代目の彰さん(後方左)、次女のめぐみさん(同右)

 中村会長は1942年生まれ。日本の空手家で、世界誠道空手道連盟誠道塾の会長。段位は十段。駒場東邦高校一期生。日本大学理工学部建築学科卒業。極真会館の発展に貢献し、大山倍達を支えた高弟で、大山の後継者とも云われた、初代首席師範。かつて大山倍達率いる極真会で「極真四天王」の一人に数えられ、1966年に同会米国支部設立のため来米。75年同会を脱退して76年に誠道塾を設立した。二代目の彰さんと築いて来た誠道空手の精神は、空手を通して豊かな人間形成をすることを目的とした「人間空手」。米国における空手道の普及に大きく貢献している。ことし創立45周年を迎える。5月にミッドタウン本部(西30丁目252番地)への移転が完了して道場を再開する予定だ。

 中村会長は「人間空手は、こういう環境の中、ヘイトクライムの中、安全でない中、根本は、気持ち。どういう気持ちで生活しているか、空手を指導する立場で言うと、全ての人を助けたいという情熱でやっている。身障者にしろ、退役軍人のプログラムにしろ、学習障害者の人にしろ、全てが学べる。特にこういうセルフ・ディフェンスが必要な時に、正しい教え方、人間的に少しは成長できるようなことを体得してもらえるよう指導に務めている」と話す。同道場では、新規移転に伴い、セルフ・ディフェンスのワークショップなども計画している。

 問い合わせはEメールでinfo@seido.com まで。

教本を読者プレゼント

 ニューヨーク在住の空手家で誠道塾会長の中村忠さんの教本(英語版)を抽選で3人にプレゼントします。セルフ・ディフェンスについても解説しています。応募は本紙編集部まで取りに来ることができる人限定(月曜から土曜・要アポイントメント)。希望者は氏名と「誠道塾空手教本を希望」と明記してEメール(miura@nyseikatsu.com)に応募を。締め切りは4月19日(月)。当選者は本紙24日号の紙上で発表すると共に当選者本人にもEメールで通知します。

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