マムダニが変える? 視座点描

 9月の国連総会にニューヨークにやってくるネタニヤフを逮捕するなんて話が無理なのはすぐにわかります。逮捕状発行の国際刑事裁判所(ICC)に米国は非加盟だし、しかもその一地方都市に逮捕状執行の法的権限はあるはずもない。外交は専権的に連邦政府の管轄ですし、おまけに国家元首や首相には不逮捕特権もあります。ただし、そんなことは重々承知の上での「逮捕検討」とのゾーラン・マムダニ市長のメッセージは強力に世界に伝わりました。

 政治はメッセージ。パレスチナ・ガザ地区への無分別なネタニヤフ政権の軍事行動は、米国内でのイスラエルそのものへの信頼を確実に毀損しています。7月15日に下院で採決された「イスラエルへの軍事支援を打ち切る修正案」は、イスラエルに対する33億ドル(約5350億円)規模の外国軍事資金援助を停止・削除する内容でした。そこに民主党議員の103人が賛成票を投じたのです。

 最終的に同案は共和党の反対で104対314で否決されましたが、これまでイスラエル支援案はほぼ満場一致で可決されるのが常態でした。それが民主党内だけとはいえ、投票した同党201人の過半数が「イスラエル切り」を行った。議員の1人は「ネタニヤフの戦争と戦争犯罪に対し、無責任に白紙小切手を発行する時代は、少なくとも民主党内では終わった」と話しました。

 中間選挙を3カ月後に控え、民主党が変わりつつあります。反トランプ路線としていわゆる「急進左派」「共産主義」と攻撃される勢力が民主党内部で力を持ち、「党内で深刻な分断」とまで言われています。でもその「顔」となりつつあるマムダニの政策を見ていると、むしろそれは庶民感情に沿った「生活者重視」路線でしかないように見えます。

 ボコボコだった市内の舗装道路の穴はすでに17万カ所近く修繕され、幽霊住民の多い超高級アパートの所有富裕層に別宅税をかけるなどの例はすでに知られていますが、その後も「小規模ビジネス支援」として余計な許可手続きを廃止・迅速化したり新規事業者にコンサルタントをつけて許認可や検査申請を一括支援したり低利融資をしたり登録料を無料化したり、はたまた24時間公衆衛生医療品(生理用品や避妊具、衛生キット、薬品過剰摂取解毒剤など)の無料自販機の設置拡大や、果てはW杯のチケット超高額化に対抗して50ドルチケットを市民向けに抽選で1千枚用意したりお隣ニュージャージー州の会場スタジアムへの無料往復バスを用意したりセントラルパークでの5万人規模の無料観戦パーティーを企画したり100以上のパブリック・ビューイング会場を設けたり、おまけにマムダニ自身はライカーズ島の刑務所で模範囚100人と一緒にテレビ観戦して盛り上がったり、と八面六臂の仕事ぶり。ライカーズでの彼のメッセージは「(服役中の)彼らも出所すればニューヨーカーだから」。そんなこと言われたら再犯なんかしないで頑張ろうと思うわね。

 反トランプの一指標として、そのマムダニが称揚する「民主社会主義」って「なんかいいじゃないの」と「社会主義アレルギー」の米国が受け入れ始めています。CNBCの最新調査では選挙で「民主社会主義者」の候補に投票するという人は、MAGA候補に投票するという27%より多い32%に達しています。

 政治はメッセージ。「働いて働いて働いて」と言いながら「仕事が大変で睡眠時間は0〜3時間」なんてボヤいて同情を買うなんてことは絶対にしないだろうし、仕事が楽しくてしょうがないというふうな満面の笑顔の使い方も実に上手い──そういや、こんな面白い34歳の姉妹都市の市長に、7月中旬に5泊6日でニューヨーク視察を行った小池百合子東京都知事は会っていないんですよね。都庁関係者によれば、会談を画策したがどうも叶わなかったようです。市政の実務に忙しいからでしょうね。

(武藤芳治/ジャーナリスト)