ルート66そのものが通っているわけではないが、ちょっと遠回りすれば、グランドキャニオンに行ける。アメリカに住んで40年以上にもなるのに、ルート66同様、一度も行ったことがなかった。アリゾナ州のキングマンを過ぎて、進路を北に取り、グランドキャニオンに向かった。
駐車場からだらだらと長い道を歩く。「いつになったら見えるのかな」と思った頃に突然、視界がぶわっと開けた。海沿いの道路を走りながら、ずっと海が見えず、カーブを曲がった途端に見えた時の海の広がりより、写真や映像で見るより、グランドキャニオンはもっともっと広大で立体的だった。コロラド川が削った断崖に吸い込まれそうな深い谷、赤っぽい大地に何層もの地層が描かれている。「これが地球の素顔なんだ…」。人の造作が全くない、地球だけの力で作った風景。しかも地層一つ一つが、20億年もの時間まで確かめさせてくれる。地球が「人類よ、あなた方の力など、どれほどなのか思い知れば良い」といわんばかり。これが「圧倒される」ということなんだ…。
私の最近のコンサートで必ず歌うのは、2021年にリリースした「TERRA〜here we will stay」。11分以上もある組曲だが「この曲を作るために今までの音楽人生があった」と公言するほど、今の私にはとても大事な曲だ。ラテン語で地球を意味する「TERRA」。この曲では、地球の誕生から始まり、多様な生物のいる世界が生まれ、人の活動によりその世界が崩れつつあるのではないかという現在、そしていつか消滅する地球そのものの命を描いている。
この曲を作り、グランドキャニオンを見るまでは、地球の温暖化が進み、沸騰化と呼ばれるようになって「このままでは地球が壊れる。地球は悲鳴をあげているに違いない」と思っていた。でも、20億年の地層に刻み込まれている地球の素顔を前にして、その気持ちが変わった。地球はなくならないのに、いつか人類が絶滅し、この地層の一部となってしまうのではないか。温暖化に起因すると思われる自然災害は「地球の嘆き」ではなく「このままでは絶滅しますよ」という「私たちへの警告」なのではないか。6600万年前に絶滅した恐竜の地層を指差す私たちと同じように、私たちに代わる命を授かった存在が「私たち人類の地層」を指差す、そんな映画のようなシーンが頭をかすめた。
重い気持ちで初めてのグランドキャニオンをあとにした。大事な遠回りだった。
(やがみ・じゅんこ、シンガーソングライター、カリフォルニア州ロサンゼルス在住)


