日本では参院選が進行中である。ここ数年、在外有権者の声を国会に届けるにはどうしたら良いかを考えてきた中で、在外選挙を通じて日本の政治事情に触れることの意義も訴えてきたが、今回の選挙にはどういうものか気持ちが入らない。一言で言えば、何かが根本的に間違っているとしか言いようがないからだ。
まず、現在の石破内閣は少数与党である。この状態を前提に、参院選によって、どのような政権構想を描くのか、各野党からは真剣な提案もないし、各政党の姿勢がさっぱり見えない。与党の自民党と公明党を合わせて、衆議院の過半数を有していない中で、どうして政権を担っているのかというと、同じ野党でも保守政党から共産党まで幅がある中では結集はできないからだ。その結果として自公政権が継続している。ただ、内閣を潰そうと思えば野党はいつでも不信任案を通すことができる。
だが、選挙前の駆け引きで露呈したように、野党には不信任案を通す意図はなかった。どうしてかというと、経済が長期低落傾向の中で、現状不満が社会に満ちている中では、野党は野党として政権批判をするほうが集票できると踏んでいるようだからだ。仮に、その政権批判の効果があり過ぎて、参院選で与党が大敗し、政権が倒れてしまったら、その時はその時として連立工作を考えよう、そのような成り行き任せの姿勢がミエミエである。つまり、各野党は言うことは威勢が良いが、要するに政権担当という茨の道を進む気概も能力もないということであり、無責任極まりない。
そんな中で、具体的な争点は「減税か給付か」という選択だという。減税とは消費税減税で、実際は食料品だけゼロにするなどバリエーションがあるが、いずれにしても実務的には小売の現場を疲弊させ、何よりも壮大な歳入不足が起こり得る。一方で、与党側としては、減税ではなく給付が良いというのは財政が慢性的に危機の中で、一過性の「対策」にとどめておきたいからのようだ。
この「減税か給付か」という論争も不毛と言わざるを得ない。どうして国民が物価高に苦しんでいるのかというと、円安、原油高、資材高、人件費高騰などが理由である。この中で資材高というのは、他国が景気過熱に陥った一方で、日本は円安で「買い負け」となっているからだ。更に言えば、多国籍企業は円安を追い風に海外での収益が膨張する中で賃上げが可能となっている。一方で、グローバル経済にアクセスできない産業は賃上げ余力がないという格差の問題もある。
これは通貨政策、産業構造政策の問題であり、当に政治を通じて主権者が選択をする問題だ。にもかかわらず、こうした本質論は回避して、とにかくバラマキと、その種類という不毛な議論ばかりが続くというのは、観るに耐えないものがある。
何よりも耐え難いのは世界の変化に日本がどう対応するか、という視点が欠落していることだ。具体的には、ロシアのウクライナ侵攻と二期目のトランプ政権の登場により、戦後秩序が揺らぎ安全保障環境や自由経済に激変が起きていることだ。選挙戦を見ていると、まるで国際社会の変化など起きていないかのような「のんき」な議論ばかりで落胆を禁じ得ない。
例えばトランプ関税の関連では、自動車産業の問題がある。米国の通商政策のために、日本車の輸出に高額な関税が適用されれば、現地生産という名の空洞化は更に進む。これは日本のGDPを毀損する。その一方で、自動車産業においては、EV(電気自動車)化、AV(自動運転車)化というトレンドは、ここ数年は停滞するであろうが、中長期的には不可避だ。
では、そのEV化に向けて産業の構造転換をするのか、これは大きな問題だ。国内でのEV普及にはまず電力供給が必要だ。その場合には、原発再稼働問題は避けて通れない。また、2t以上となるEV車に耐えられるように老朽化した橋梁などの修復も全国で進める必要がある。AVの推進には、自動運転車の許認可も問題となろう。具体的な話題としては苦境に立つ日産を台湾の鴻海が買収して、EV産業を展開しようとしているが、そもそも国策としてこうした動きを許すのかも重要な選択だ。
安全保障に関しては、同盟国に防衛負担を強いるアメリカの政策に対して、できるだけ負担を先送りしつつ、軽武装国家の国是は壊さないのが国民的合意で、従って選挙の争点にはならないのかもしれない。それでも、防衛費の激しい膨張は周辺国に軍拡競争への誘惑を生じてしまう。それは日本国の本意では全くないことは、やはり選挙戦の中で明確に国民が意思を示すべきだろう。
いずれにしても、正々堂々と政権構想が語られず、重要な政策論議もされない今回の参院選は、日本にとって悲劇としか言いようがない。
(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)

