快楽と自由のための創作こそ芸術

横尾忠則 GOOD DAYS 79

 もう2019年です。18年の一年は何だかウロチョロしている間に終わりました。加齢と共に時間の経過はどんどん早くなっていきます。もう僕の年齢(19年6月には83歳)になると2年も3年も先のことは考えられません。
 嬉しいというか、悲しいというか、日本は人生100歳時代を迎えて如何に生きるかを大テーマにしています。本人がこれからは100歳を経験するかのような風評に揺れていますが、そちら、アメリカでは如何でしょうか。アメリカに在住の日本人の方はアメリカ社会の考え方を受け入れておられるのか、それとも日本の100歳時代のどちらの発想で人生を見据えておられるのでしょうか。アメリカと日本の食生活、医療問題にはかなりの相違があるかと思いますが、大変興味のあるテーマのような気がします。
 テレビでは毎日のように医療関係の番組を流しています。週刊誌も医療記事が掲載されない週はなく、書店には健康と老人問題をテーマにした書籍が山積しています。長生きしたい、死にたくないという願望ブームです。このブームは一過性のものではなく、未来の日本社会のビジョンを予知しています。
 僕は昨年、『創造と老年』という芸術家9人と対談した本を上梓しました。残念ながら初版のまま増刷はかかりませんでしたが、台湾の出版社から翻訳本が間もなく出版されることになっています。この本は創造が人間の寿命を延命させるという想定のもとで画家、建築家、写真家、音楽家、映画監督、小説家、俳人らと語り合った本です。日本人の長生きの理由としてめざましい医療の発達と豊かな食生活、エクササイズ、散歩などの体力向上のための運動の普及や余暇の過ごし方などがあげられています。
 僕は、これらの肉体への関心と同時に、創造することも長命につながるのではないかとこの本で提案したのです。創造することによって、心の不透明な雑念を吐き出すことができます。つまりストレスの解消です。創造がストレスを解消するということがあまり問題視されていません。創造することは内なる子供の心を取り戻し、行為自体を遊戯化することです。創造の目的は、創造行為それ自体で、創造の結果などは無視されるべきです。何かのため、何かの大義名分のために創造するのではなく、快楽と自由のためです。このような創造こそが人間の内部にエネルギーを喚起させ、雑念や欲望から離れて自由になれるのです。大方の病気の原因はストレスによると、日本の医師は言います。
 創造することはストレスを吐き出すことです。そしてその行為には必然的に遊びが関与するのです。
 遊びながら健康になり、長寿できればこれほどいいことはないじゃないですか。これからの未来社会に必要なのは創造、つまり芸術を愛する心と行為です。それともやっぱり科学ですか? しかし科学は一方では人類を滅ぼしかねません。芸術社会の実現こそが人類を救うことになりませんかね。(よこお・ただのり/美術家、東京都在住)

黒・赤・青, 2017年, キャンバスに油彩, 909×652mm(個人蔵)