アイヌ文化を世界に紹介する

映像作家
ドキュメンタリー「Ainu ー ひと」監督     

溝口 尚美さん

 ニューヨークマンハッタンの市庁舎街に近いダウンタウン・コミュニティ・テレビジョン・センター(DCTV)でドキュメンタリー編集・映像制作講師などの仕事に携わってきている溝口尚美さん。彼女にはもう一つの顔がある。先住民族の映画製作などをライフワークとして関わってきている中で、日本のアイヌの文化を海外に広める活動を行なっているのだ。

 兵庫県出身。1992年に映像プロダクションに入社し、映像制作の「いろは」を覚えた。95年から、フリーランスとして関西を拠点に、テレビ・VP・CM・映画など、さまざまなな分野の映像制作に携わるが、2002年、津野敬子著『ビデオで世界を変えよう』に感銘。市民メディアに興味を持った。文化庁の新進芸術家海外研修制度に2度応募するも落選。 しかしそんなことには負けず、2004年、自費でニューヨークに。津野氏が夫のジョン・アルパート氏と共同設立したアメリカで最も古い市民メディアセンターの1つ、DCTVの扉を叩いた。インターンを経て、現在に至っている。 

 2008年、米国で非営利団体シネミンガを共同設立し、世界の先住民コミュニティを訪れ、映像制作のための機材とスキルを提供し協働制作する活動をコロンビア・エクアドル・ネパールで実行した。これまでにディレクターとして制作した作品は100本以上。編集は400本以上に。 

 そんな溝口さんがアイヌに興味を持ったきっかけは2008年。シネミンガの同僚(南米出身)からアイヌ民族の事を質問され、一言も答えられなかった自分が恥ずかしかったという。母国の先住民族の事を知るために、北海道を訪問。アイヌのコミュニティラジオ局のあった平取町へ。アイヌ語教室で出会った川奈野一信さんの好意でその後、ホームステイをしながら平均年1回程度の割合で通い続ける。当初は南米の先住民族とのビデオ交流を模索していた。南米で制作した映画の上映会も行った。14年、シネミンガ辞任を機に平取町を再訪した際の雑談の中でドキュメンタリー映画「Ainu ーひと」の製作を決意し、2015年から3年かけて完成させた(https://www.ainuhito.com/)。二風谷アイヌ文化博物館と協働制作という形を取り、川奈野一信、元子夫妻を含む地元の古老4人を主人公に記録を始める。出来上がった作品とすべての撮影素材は寄付した。地域の人に映像制作のワークショップなども行った。 

 2018年6月 「Ainu ーひと」世界プレミア上映会を平取町で2日間に亘って開催。 9月には神戸と大阪で同時劇場公開。ホームステイで世話になった川奈野夫妻を舞台挨拶に招待し、工芸品などを販売するイベントも開催。満席の上映会となった。19年に英語版制作。これまで、世界中で10の映画祭に入選している。ブラウン大学やブリティッシュコロンビア大学など、学校での上映会やレクチャーも行った。今春にロンドンのジャパンハウスで開催されたアイヌ文化紹介イベントを見て、いつかニューヨークでもアイヌの人々を呼んで、イベントをするのが夢だという。    

 (三浦良一記者、写真も)