社会の理不尽と共に闘って31年

社会活動家 エレノア・バッチェルダーさん 大野富美子さん

 「共に31年」。こう記したプラカードを持って昨年夏、クイーンズのゲイ・プライド・パレードに参加した女性二人。大野富美子さん(70)は妻で米国人のエレノア・バッチェルダーさん(78)と「一緒にいたい」、ただそれだけの理由で中南米、日本、カナダと転居した末、1年半前に出会いの地ニューヨークに戻った。今は、アーティストとして自宅のアトリエで制作活動を続け、言語学者のエレノアさんと共に同性愛者や移民など、社会的弱者のための活動に積極的に参加している。昨年はマンハッタンで行われたウィメンズマーチでも歩いた。
 東京出身の富美子さんは1986年当時、先住民の文化に興味を持ち中南米に住んでいたが、異文化探訪にニューヨークに来て情報収集にとアッパーウエストサイドのウーマンズブックストアに立ち寄った。スペイン語で店主と話しているうちに「店の最初のオーナーが日本語を勉強している」と紹介されたのがエレノアさん。バツイチで3児の母だったエレノアさんは富美子さんに一目ぼれ。こうしてグアテマラ、メキシコ、ニューヨークでの同居が始まった。富美子さんは「子供のいるレズビアンに会ったことがなかった!」と笑い飛ばす。
 ニューヨークでの滞在ビザが切れた頃、勉強したいなら市立大学生になればいいと教えてもらった。「当時は、不法滞在でも教育機関は受け入れてくれた」。なんとかTOEFL合格を経てラガーディア大学に入学。しかし、そのまま居残れないと、卒業すると日本に戻ることに。追いかけるようにエレノアさんは研究助成を得て、3年間つくば市に一緒に住んだ。事実婚を認めるカナダへ移住したのは2008年。エレノアさんはビザ取得のための点数が足りないと分かると、フランス語を猛勉強して点数を追加した。
二人の軌跡は、トロントのテレビ局が「愛のための亡命」と題するドキュメンタリーを撮ったほど。カナダでの9年間、富美子さんは芸術を学び才能を開花させる。
2011年になって、ニューヨーク州が同性婚を認定。エレノアさんは同性婚を認めるか否かの議論のなか、議会で証言したこともあった。婚姻届を出し、子供たちの住むニューヨークへと戻ることに決めるが、煩雑な書類手続きを経てようやく富美子さんの米国永住権が1年半前に取れた。
 同性愛に対する偏見については、「偏見を持つ人も、それはその人の権利だから、そのような人たちに対して言いたいことは何もない。何を言っても言わなくても、経験や知識によってその人たちの考え方は変わってくる」と言う富美子さんを、ある人は竹を割ったような性格という。(小味かおる、写真も)