たのしい遊びと行事やしきたり
新しい年の始まりを祝う行事は世界各地で行われていますが、日本では「正月」といって1年で最も重要な行事です。お正月行事には、日本人が自然を畏れ敬いながら暮らしてきた農耕民族であることによる精神性とともに、米を最も大切な作物としていることなどが受け継がれています。なお、1月を「正月」というのは、「正」という漢字に、年の初め、年が改まるという意味があるからです。みなさまの2025年が幸多いものでありますように。 (絵と文/平田恵子)
西暦2025年は、令和7年、へび年
西暦2025年は、和暦では令和7年、干支ではへび年です。新しい年の干支は1年の守り神であり、それを敬うことで時の運に恵まれると考えられています。そのため年賀状や新年ポスターのデザインでは、へびの絵が多く登場しているのです。蛇は、脱皮を繰り返して成長することから、再生や成長運の意味をもちます。また、金運の神である弁財天の使いなので、金運を上げるパワーがあります。そもそも干支とは、古代中国でつくられた暦を元にして、アジアの漢字文化圏に広がった順番の表示方法です。かつては方角や時間も示しましたが、現在は年号の補足や生まれ年の表示によく使われます。これを十二支といい、子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の12種の動物で構成されます。それぞれの動物がもつ特性に応じて、その年の傾向やその年生まれの人の動向指針に反映されたりする傾向があります。
■初詣
初詣は1年の幸福を祈るお正月行事
初詣は、これから始まる新しい1年の幸運を祈る行事です。「初」は初めて、「詣」は寺社にお参りするという意味。つまり、身なりを整えて神社〈日本古来の神を祀る神道の宗教施設〉にお参りし、平和に正月を迎えることができた感謝と、「本年もお見守りください」との祈りを捧げる行事です。昔は、
大晦日の夜から元旦にいたる新年の第一夜は家族そろって自宅で年神さまをお迎えしていました。やがて、その年の幸運をもたらす方角にある神社にお参りするようになったのが初詣の始まりです。
お参りの作法は、神社の敷地内にある手水舎と呼ぶ手洗い場で、手を洗い口もすすぎます。これで神の前に出る体が清められます。神殿でお賽銭を入れ、鐘を鳴らします。鐘を鳴らすのは自分の存在を神に伝ええるため。続いて礼を2回、拍手を2回。次にお祈りをして、礼を1回して終わり。この参拝の手順を「二礼、二拍、手一礼」といいます。
とにかく日本人は初詣を済ませると、1年が平安に過ごせる穏やかな気持ちになります。
■門松
門松は、年神さまへの目印
昔の日本人は、新年になるとその1年の幸福を運んでくる「年神さま」という神が、全ての家庭を訪れると考えていました。この神さまは、仏教の神ではなく日本古来の宗教である神道の神です。農耕民族である日本人にとって年神さまは、幸福の神であり豊作をもたらす米づくりの神のことを言います。この年神さまが天から下界に降りてくるときに、迷わないように目印になるのが家の前に立てる「門松」です。主な部材は、松と竹と梅、稲です。松は、冬でも枯れない生命力があり寿命が長いので「平安」と「長寿」の意味があります。竹は、成長が早いこと地下茎を広げて新株を次々と出していくことから「繁栄」が託されています。「梅」は、雪の中でも花を咲かせる「強さと美しさ」を表しています。「稲」は主食。年神さまを「門松」で迎えて、お正月期間を、おめでたくおだやかに過ごす意味があります。NYの日系の会社やレストランでも、入口前に門松を置いているところが多いと思います。
■しめ縄
しめ縄は、家を守る魔除け
「門松」と並んで大切なお正月飾りが「しめ縄」です。お正月に大がかりな「門松」を立てない家はあっても、ほとんどの家では「しめ縄」を玄関ドア上に飾っています。主要な材料は、秋の稲刈りの時にとっておいた稲の茎をねじり締めてつくった縄です。これに、幸運をもたらす縁起のよいものを組み合わせています。なかでもダイダイという柑橘類は代代にわたり家が続くという同音から、繁栄の意味があり、しめ縄には欠かせません。もともと「しめ縄」は、神道で用いる境界線を引く縄張りから簡略化されたもので、諸悪うずまく世間と神聖な場所を区切る意味があります。そのため玄関に飾ることで、家の中は清浄な空間となり、年神さまをお迎えするにふさわしい場所になるというわけです。とくに「しめ縄」には神威によって鬼を退散させる力があるため、病気や災難をもたらす魔物は家に入ることができないのです。キリスト教文化でいえば、ドラキュラは十字架や聖水など聖なるものが苦手であることに似ているかもしれません。
■書き初め
書き初めは、文字・知性の向上行事
1年のはじまりであるお正月には、「初」がつく言葉が多くなっています。「初」は「最初の」という意味で、「初詣」「書き初め」「初日の出」「初夢」などがあります。とくに茶道・書道などの稽古ごとは、一月二日から始めると上達するといわれ、「書き初め」は書道の稽古をその年に初めて行うことです。歴史は古く、もともとは平安時代(8〜12世紀)の宮中で貴族が行った「吉書の奏」という行事を始まりとしています。やがて江戸時代(17〜19世紀)には庶民も読み書きができるようになり、正月行事として広まりました。
昔の日本人は、墨と毛筆を用いて文字を書いていました。手書き文字は人柄や教養を示すので「書き初め」は知性の象徴となる「文字の上達」を願って行われていたのです。現代はパソコンやスマホなどで活字が多く使われますが、1年の希望や大切にしている言葉を毛筆で力強く書き上げて、知性向上の願いとともに書に託した自分の決意を表しています。
■凧あげ
運勢もあげる「凧あげ」。男の子のお正月遊び
お正月は日本人にとって最もおめでたい行事なので、お正月ならではのたのしく縁起のよい遊びがいろいろあります。男の子の代表的な遊びが「凧あげ」です。歴史は古く、平安時代(8〜12世紀)に中国から貴族の遊びとして伝わりました。やがて平和が長く続いた江戸時代には、年の初めに男の子の誕生祝いとして凧をあげる儀式として行われました。凧が大空にぐんぐんと高くのぼっていく勇ましいようすを、子供の健やかな成長に重ねたものです。風の強さと糸のあやつり方の関係で凧がより高くあがったり、風に乗ってより長く空を舞い続けるおもしろさから子供も大人も夢中になりました。「けんか凧」といって凧同士相手の糸を切りあう遊びもあります。このほか、武家に仕える奴とよぶ奉公人が両手を広げた「奴凧」も江戸時代から続いている人気の絵柄です。
■お節料理
お節料理は、新年の祝い膳
「お節」とは「お節供」を短くしたもので、神さまの食事のこと。日本人にとって正月が最も重要な行事であるため、正月のお祝い料理を「お節料理」と呼ぶようになりました。お節料理は、その年の幸せをもたらす年神さまへのお供えものです。お供え後に、これをおさがりとしていただくことで、神さまの霊力をわけてもらい、家族が1年を生き抜く力を授かることができるというものです。代表的な料理は、昆布巻き=よろこぶの音合わせ、黒豆=「まめ」には健康の意味があり元気に暮らす願い、数の子=ニシン魚卵のことで数が多いので子孫繁栄、エビ=腰が曲がるまで長寿の願いが託されています。また、用意される「祝い箸」は、柳でできており苦難にあってもしなやかで折れない強さを表します。
■はねつき
健やかさを祈る「はねつき」は、女の子のお正月遊び
最近はあまり見かけませんが、かつて女の子の代表的なお正月遊びが「はねつき」でした。「はねつき」は、羽子板という飾り絵のついた木製ラケットで、羽根がついた玉を空中に打ち上げてお互いに打ち合います。打ちそこなって玉を地面に落とした方が負け。負けると顔に墨を塗られるというルールがあり、これは魔除けに通じるものでした。もともと「はねつき」は遊びではなく、お正月の宮中行事でその年の占いと魔除けとして行われていました。羽根がついた玉は、蚊を食べるトンボの姿に似せた縁起もので、子供の病気を引き起こす蚊にさされないよう、無事に成長するおまじないになっていました。羽根につかう黒い玉は「ムクロジ」という植物の種で、漢字では無患子と書いて、子供が病気を患わないという意味があります。同時に、女の子が美しい晴れ着姿で行う「はねつき」は、おめでたいお正月の雰囲気を盛り上げる効果もありました。
日本のお正月とマナー
■新年の挨拶
■新年の挨拶
「今年も宜しくお願いします」(ことしもよろしくおねがいします)
新年の挨拶として日本では1月15日ぐらいまで「明けましておめでうございます」と言います。これは” happy new year”と同じ意味です。ただし、日本語ではそのあとにプラスして「今年も宜しくお願いします」が続きます。これは英語にはない表現で、前年に引き続き相手と良い関係を継続したいことを表す挨拶です。年賀状にも敬意を込めて書くことが多く、仕事関係者にも友人にも使えます。
■おみくじ
日本では新年に初めて神社や寺に参拝した後「おみくじ」を引いて運だめしをする習慣があります。吉凶で一年の運勢を見ますが「大吉」は最もラッキーで運がよく、願いの叶う一年になる。逆に「凶」は生活に注意が必要な時期で気持ちを引き締めること。他人のおみくじを覗き見るのはマナー違反。小さな紙には健康、恋愛、学業、旅行などへのアドバイスが短く書かれています。神様からのメッセージと考えて持ち帰ったり、神社の木の枝などに結ぶのが一般的です。
(長久保美奈、マナー講師)
言葉の意味(ことばのいみ)
・継続 continuation
・良い関係 good relationship
・年賀状 new year’s card
・敬意を込めて wish respect
・おみくじ a paper fortune
・初詣(新年初めて参拝する) hatsumoude
・参拝 worship
・大吉 great blessing
・凶 bad luck
・学業 school work