舞踏会マスクや運河を楽しむ 迷路の街イタリア・ヴェニス

 イタリア・ヴェニス(ベネチア)の島は、ブラブラ歩きの街だ。建物はお互いに統一感を保ちながらも、各自が個性的なデザインである。見知らぬ街を適当に歩いて、良さそうなカフェに入る。歩きながら、本場のジェラートを舐めたりも良い。ところが目的地がある場合には、なかなかたどり着けないのでフラストレーションとなる。なにしろ小径ばかりの入り組んだ迷路の街なのだ。地図を見ても道の名前のイタリア語が皆、同じようで区別がつかない。この道をまっすぐ行けば良いと思っていたら突然、運河にぶつかって行き止まりだったりする。
 滞在3日目、アパートの周辺の地理には慣れたから、大運河を挟んだ向こう岸の魚市場に足を向けた。午前11時に着いたのだが、魚屋さんはとっくに閉まっていた。そうか、周辺のレストランはランチに間に合うように魚を買いに来るのだから、朝方に来ないとダメなのだな。切り落とされた魚の頭を飲み込むのに苦労しているカモメを撮って引き返す…はずだったのに、これがなかなかアパートに戻れない。目の前には私の進む方向に伸びる小径が5メートル間隔で5本並んでいる。1つずつ試して、この5本全部が小さな運河にぶつかって行き止まりな事を発見。この運河はどう渡るのか? 街の人に訊いても「あっち」と大雑把に指差してくれるばかりで、まあ、こんなに小さな道ばかり無数にあったら説明しようが無いし、説明されても分かりませんしね。というわけで動物本来の持つ本能で歩き続けるのだが、都会暮らしの私の方向感覚は、まるで衰えていて、ますます見知らぬ地域に迷いこむ…。しかも銅像の建つ広場やお店はどれも同じような趣きなので、「あっ、ここはさっき通った」と思わせるのだが、全然違うのだった。磁石があると少なくとも方向が分かるから地図も見やすくなると思うけれど、ニューヨークを出発する際には磁石の必要性まで頭がまわらなかった。地図の小さなイタリア語を読むには虫眼鏡も便利かも知れない。
 ヴェニスは舞踏会のマスクが有名だ。キャットウーマン風の猫の面やカラスのようなマスク、これは疫病が流行った時に防御のために医者が付けたのが始まりと言う。茶色い天狗や能面に見えるマスクもある。自分で作る体験教室もある。下手にできてもプロが綺麗に手直ししてくれる。ユーロへの両替はJFK空港で1ユーロが1ドル35セント、ヴェニスの空港で1ドル25セント、街では1ドル20セント。街だと小銭までくれるので便利だ。
 最終日は水上バスで駅まで行く。小さな乗り場ではチケットを売っていないので、乗船してから7・50ユーロの切符を買う。タダでも乗れそうだが、チケットの無い人や持っていても日付け印の無い人への罰金は60ユーロとのこと。鉄道の駅で大発見! コーヒーやサンドイッチは駅構内のカフェが極上。しかも安い。と喜んで何杯も飲んでいたら、トイレを使うのには毎回1ユーロが必要だった。新幹線のように速くてモダンな列車でローマに向かう。進行方向に向いている席で良かったと思っていたら、途中の駅フェレンツェで電車の進行方向が逆になった。知らない国は戸惑うことが多くて愉快だった。(クニ三上/ピアニスト)