2009年、来米してまだ1か月も経たないある日の夜、恐る恐る一人でNYのジャズクラブへ出かけた。そこのジャムセッションでフルートを演奏した。「キミ上手いね。明日ジャムセッションが別のところでもあるんだけど来ない?」とニックと名乗るそのギタリストは言った。
翌日行ってみるとそこは、国連横にあるマイルス・デイビスとも共演していたNEA (National Endowment for the Arts) のジャズマスターでドラムスの巨匠、チコ・ハミルトンのペントハウスAだった。チコの自宅の初めて参加したジャムセッションが終わるや否や、チコはマネージャーのジェフリーに電話をかけた。「次のショーからフルーティストが参加するよ」と。それがニューヨークでの演奏活動のすべての始まりだった。
佐伯麻由さん。島根県出身。1998年に広島のエリザベト音楽大学大学院修士課程修了後、日本での演奏活動を経て来米。現在ニューヨークを拠点にクラシック、ジャズ、舞台音楽の分野を横断し、オーケストラ、オフ・ブロードウエー 公演、ラテングラミーアーティストのアルトゥーロ・オファリルのジャズアンサンブル、フォー・ケルティック・ヴォイセズのアメリカ国内ツアーにもメンバーとして参加するなど国際的に活動している音楽家だ。
フルート、ピッコロも製造するTrevor James Flutesのアルトフルート・エンドース契約アーティスト。篠笛、ピアニスト、伴奏者、教会パイプオルガン奏者としても活動する。同時に教育者としてもジャズ・ハウス・キッズ協会の教師としてピアノアンサンブルクラスを担当。また長年、米国の大学、高校、小学校などで音楽教師として指導。来月から国連国際学校(UNIS)の非常勤音楽教師(代理講師)に採用される。
「ニューヨークは、自分にとっては、ベストな土地です。多様性に富み、みんなこのニューヨークの街に来たくて来ている。出会う音楽家、生徒もニューヨークに対する期待値が高いところを見て来ていることが分かるんです。私の場合は、これまで一つのジャンルにいないように分野を超えて、常に自分のやりたい音楽をやってきたので、これからもその生き方は貫いていきたいです。タイトルとか分野ではなくて自分が納得できる音楽に集中していたいということです。地域社会に喜んでもらいたいという気持ちがここまで演奏してきて最近思うようになりました」とも話す。誰が演奏しているのか音を聴けば分かる。そんな境地だ。
自身のアルバム『HOPE』(ブルックリン・ジャズ・アンダーグラウンド・レコーズ2018)をリリース。アメリカ全土のリリースツアーが成功し、ダウンビート・マガジンに掲載され、多くのアーティストのレコーディングや、MAYA・ザ・ミュージカルのキャストアルバムにも参加した。4月末にはブルックリン植物園で自身のグループで出演する。
「チコ・ハミルトンと出会ったとき彼は90歳でした。4年間彼のバンドに在籍して演奏して、最後のレコーディングから1か月後に死去しましたが、スピリットは90代のものではなく演奏はエネルギッシュでした。アーティストという職業は、最後まで現役ということかもしれませんね」。
4年前、気にかける存在が家にやって来た。ココという愛犬と過ごす時間が、多忙な日常をリセットしてくれるのだという。
(三浦良一記者、写真も)

