ジャパン・ソサエティーは8日から11日まで、京都を拠点に歌舞伎の演目を現代劇として再解釈・再発信する木ノ下歌舞伎(主宰・木ノ下裕一)による「勧進帳」を上演した。「勧進帳」は源義経が兄・頼朝に追われ、家来の武蔵坊弁慶や一行とともに山伏に変装して関所を越えようとする歌舞伎の代表作。人気若手演出家・杉原邦生の現代的な演出・美術により、若者言葉やラップ、テクノ音楽なども交えながら、12世紀の古典の物語を黒ずくめの俳優7人が演じた。
(写真上)Photo by Ayumi Sakamoto
舞台の奥にも観客席を作り、ステージそのものを歌舞伎の花道に見立てた奇抜な舞台セット。逃亡して検問を潜り抜けるという逃避行は、時代を超えた世界各地の現代社会とも重なり、送り手と観客がそれぞれの思いで劇場を一つにした。木ノ下氏と杉原氏に作品について聞いた。(三浦良一記者)

木ノ下 初演から10年。2016年にこの作品を作った年は、トランプ第一期大統領選挙があった年で分断と排除という言葉が聞こえてくる時期だった。その時期に勧進帳を上演したのは演劇としてのアンサーとしての側面があったが、10年経って、時代はよくない方向に進んでいる感じが深まっている。まさか、アメリカを含めて争い、侵略が起こる時期にNY公演を行うとは思っておらず重さを感じる。
杉原 かねてからNYでやりたいねと言っていた世界のエンタメタウンなので、個人的にも演出家としてもようやく来れたという嬉しい思いだ。
木ノ下 メッセージは自分と他人、国と国、 共感することは難しくても、理解しようとすることはできるということ。共感することは100%は無理でも諦めないことが大事ということを作品を通して伝えたい。
杉原 作品のテーマはボーダーライン。意識するしないに関わらず人は勝手にボーダーラインを作っている。いろんなところにラインがあることによって、コミュニケーションを遮断したりしないことが平和の一歩。見た人がそういうことに思いを馳せられたらいいのだが。
木ノ下 演劇の魅力は生の良さです、と思いつつもそこに固執していいのかという思いもまた一方である。来れない人もいる中で、何がなんでも劇場で生ですよというのは傲慢だし、その場所と時間を共有できなくてもさまざまな技術を使って何かをシェアできるという努力も怠ってはいけなのではないかと思う。ただ何が起こるかわからない、客席で咳が聞こえたり、舞台でやってる側だけで演劇を作っているわけではないので毎回違った感じはおそらくAIにはできない。
杉原 自然に涙が出るとか言語化できない、情報化できない感動というものがアートや演劇にはある。日本だと古典を現代的に表現することはまだあまりないのでまたNYに来たい。
◇
舞台を見た観客からは「弁慶と義経のユニークで革新的な作品で、感情が客席に伝わり反応やリアクションも良かった。古典作品への忠誠心と斬新な挑戦の融合を学んだ」(ジャスティン・テダルディさん)、「オリジナルの歌舞伎の話は知らなかったが、とても楽しめた。テーマのボーダーラインは、南米からの移民が7日間昼夜ジャングルを移動して国境を超えていく姿とオーバーラップした。友人に勧められる作品だ」(トリサ・アイリーンさん)、「コンテンポラリーな表現、演出が素晴らしく、出演者もドラマチックで良かった」(アルテン・クレーマーさん)、「日本人だと、伝統的な歌舞伎の世界の作品を現代的にアレンジすること自体、何かやっちゃいけないこと、触ってはいけないことみたいなアンタッチャブルなイメージがあるが、それを見事にやれているのが面白い」(黒部エリさん)などさまざまな感想が聞かれた。

