バラクータのG9

イケメン男子服飾Q&A 87
ケン 青木

 暑い日が続くな・・・と思っておりましたら、ふと気がつけば今日はトンボが何匹も飛んでいるのを見かけました。日々慌ただしく過ごしておりますといつの間にか季節が巡ってまいりますが、今回はそうした時期に一着お持ちだと便利なモノについて触れてみようかと。

 ニューヨークの周辺にはゴルフ場が多いですね。昔、日系企業に御世話になっていた時分には年に数回ゴルフのコンペに、下手くそなんですが、会社を代表して顔を出させていただくことがありました。天候が急に変わる、小雨がパラついたり、風が出て来て肌寒くなった際にあると便利なのがゴルフ用の「ジャンパー」ですね。そして出来れば軽量なのがよい。

 今回取り上げますバラクータ(Baracuta)社のゴルフ用ジャケットG9という型番で、Gはゴルフとジェントルマンからと聞いておりますが、真偽のほどは(笑)。そのほかG4、G7、G10などが知られており、G7とG10はゴルフ用というよりはレインコートですね。G9にはHarringtonというモデル名が付いており、製品のデビュー以来70年以上という「男の大定番」と言ってもよいシロモノなんです(笑)。日本ではスウイングトップと言われておりますね。VANの石津先生の例によっての造語です。

 実はバラクータ社は英国の会社で、第二次世界大戦前に創業、戦後の1948年にこのG9を発表しました。英国のこのような紳士もののアウターウエアの企業はバーバリーやアクアスキュータムなども勿論なのですが、軍需品、軍服との関わりがあり、一言で申し上げるならば機能的、別の言い方をするならば「服を科学する」という一点に集約されるのかなと思いますが、このG9、軽くて丈夫な生地で身体の動きを妨げず、天候の変化にも雨にも負けず、急激な体温の変化など起こりにくいよう様々な工夫がなされており、例えば、

(1)上着丈は腰骨の位置でフィットする、スイング時の身体の動きを妨げない短め、(2)腕の動きが楽なラグラン・スリーブ、(3)雨の水滴が背中を濡らさないよう工夫されたアンブレラ・ヨーク、(4)襟元から冷気の侵入を防ぐリブ編みのドッグイヤーカラー、(5)同じリブ編みを手首と腰廻りにも施し、ソフトにフィットする工夫をetc.

  そして、(6)表地には綿100%ではなく、あえて丈夫な綿とポリエステル混紡の防水加工されたポプリン地を。

 さらにも一つ、これもシグニチャーである(7)Hunting FraserというClan Tartanが裏地に使われていること。実はlast but not least、G9がアメリカで売れた大きな理由がこのFraser Tartanにあったとも言えるのですが、これについてはまた別の機会に。Tartanは家紋なのです、とだけ(笑)。

 このこともあえて触れておきますが、(株)デスモンド・インターナショナルという、今日は存在しない福岡が実質本社の東京のアパレル企業が、日本市場におけるバラクータ製品の販売権を持っており、かつては綿100%のポプリン地やウール/カシミヤ混の冬向けのG9が世界で唯一日本でだけ存在しておりました。シングルのトレンチコートのG10もそうでした。同社の中牟田久敬代表の情熱の賜物であったと思います。

 さらにも一つG9について御話する上で欠かすことが出来ない、それはG9がスティーブ・マックィーンと高倉健という日米を代表する俳優さんにプライベートで愛用されていたことなのですが、これにつきましても別の機会に。そうそう、春夏の寒暖の差の激しい時、あると便利、ボトムスについてもナンでも合ってしまうG9、という御話でした。それではまた次回。

 けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ。