終わらないNYの魔法

岡田 光世・著
文春文庫・刊

 道を聞くと周りがみな口を出す。地下鉄のホームで他人同士が踊りはじめる。たまたま写真に写りこんだ人が、「これで私を忘れないわね」。静かな車内で著者が噛むガムが大きな音で弾けると、前の男性が「いいね」と指を立てる…。
 大都会・ニューヨークの街角で出会った人たちとの温かい触れ合いを、小粋な英語表現とともに綴る、大人気シリーズ。第9弾『ニューヨークの魔法は終わらない』(岡田光世著・文春文庫)が刊行された。
 第1弾『ニューヨークのとけない魔法』以来、静かな感動を呼び、累計40万部! エッセイが売れない時代に、多くの人の心を鷲掴みにしてきた。 
 「連作を含めて507話。これだけたくさんの人と言葉を交わしてきたことに改めて驚きます」と、岡田さんは語る。
 大都会で孤独を抱えた人も多いけれど、個性的で、お節介で、泣きたくなるほど温かい瞬間がある。そして、私たち日本人が忘れてしまったものを、この街は思い出させてくれるのかもしれない。
 シリーズの読者は、意外にもニューヨークに行ったことがない人が多い。「いつもバッグに入れて、辛い時に読んでいる」「何度も繰り返し、読み直している」「枕元に置いて、毎晩1話、読んでから眠ります」という手紙が全国から届く。また、どの本から読んでも楽しめて英語も学べるので、プレゼントとしても最適だ。
 さて、多くの人に愛されている「魔法」シリーズだが、本書をもって、シリーズはいったん幕を閉じる。著者の原点となり、涙なくしては読めない最終章「アメリカの家族アルバム」や、とっておきの秘蔵エピソード、味わいを増した著者撮影のカラー写真など、最後を飾るにふさわしい、渾身の書き下ろしだ。
 「この街で暮らし、どんどん自分が子供に戻っていく気がします。シリーズは終わっても、『ニューヨークの魔法』は終わらない。これからも、さまざまな〈出会い〉を楽しみにしていきたい」と、岡田さんは話す。魔法は当分とけそうにない。
 そして新刊と同日に〈シリーズ特別編〉として、『世界にひろがれ、とけない魔法』がApple Booksで無料配信された。
 既刊本から著者が厳選した30編と、世界各国版の書き下ろしの2部構成。イスラエル、モロッコ、フィンランド、そして日本の松山での、心温まる触れ合いが描かれる。
 ネイティブの英語音声を聞け、著者撮影の写真がアニメーションとなって動くなど、楽しい仕掛けがたくさんあるので、ぜひ気軽にダウンロードしてみてほしい。
 「ニューヨークの魔法」シリーズが、これから先も長く広く、愛されることを祈ってやまない。(文春文庫編集部・北村恭子)