
NYでは陽一さんの帽子を常に持ち歩いた住山一貞さんと妻のマリさん
米同時多発テロ遺族の25年
25年前の米同時多発テロで息子を亡くした住山一貞(かずさだ)さん(89)が11日、妻のマリさん(86)とともに世界貿易センタービルの爆心地、グラウンドゼロで開催された追悼式典に出席した。9日午前、インタビューした。
長男の陽一さんは当時、世界貿易センター(WTC)南棟に支店があった富士銀行(現みずほ銀行)勤務。日本人駐在員12人と現地スタッフ11人が犠牲となった。「1階まで避難したが戻って大丈夫というアナウンスがあったらしく…。運が悪かった」。約半年後に指の小さな断片が発見された。
この25年、住山さんはあらゆる取材に応じてきた。誹謗中傷にも耳を貸さず「誰かが発言しなければ忘れられてしまう」という一心で。日本人遺族会を作りたいと呼びかけたこともあった。自称「遺族会勝手事務局」の住山さんは、真実を知りたいと567ページに及ぶ報告書を翻訳する活動に邁進する。米議会による「9・11レポート」をクラウドファンディングで出版、続けて米商務省の米国標準技術研究所(NIST)が発刊した報告書も読み、自ら検証した『9/11の真実を求めて』(ころから刊)を出版した。
9・11メモリアル&ミュージアムで12日に一般公開された25周年記念展では、住山さんの翻訳作業を紹介する特設コーナーが設けられた。原本と日本語版、翻訳家の校閲原稿、英語と格闘した翻訳時の相棒だった電子辞書が展示されている。
(写真上)博物館C4階の特別展示室に設置された住山さんに関する特設コーナー
イスラム社会について理解しようと、つい最近まで講座にも通った。「アフガニスタンが平和になって、陽一の死もむくわれたと思ったのに…」と、昨今の国際情勢を憂う。「この9・11の事件は、これからの国際社会を考える上での原点」だと言い、事実を伝えたい、真実を知りたいという思いは今も尽きない。
式典参加は、2020年のコロナ禍までは毎年、その後は23年に続き3年ぶり。式典主催者からは入場券が送られてくるが、渡航費・宿泊費などは自費だ。歩行が少し困難だが矍鑠(かくしゃく)とした姿や穏やかで理路整然とした語り口は変わらない。3年前の本紙取材で「検視官が遺体の残りはEvaporate(蒸発)したというのです。そうであれば息子はニューヨークの街の空気の中に漂っている。行ってやらねば」と話した住山さん。偶然にも、宿泊するホテルの部屋の窓からは「YOICHI SUMIYAMA SUGIYAMA」と名前が刻まれた場所が見下ろせた。
(小味かおる、写真も)

