政権がとりあえず立ち上がった あめりか時評

今、国内の3大改革へ注力せよ

 イランを巡る安全保障問題が緊迫する中で、高市総理の訪米には様々な懸念があったが、関係を損なうことなく日本の立場を説明できたことは成功であった。さらにこの年度末から新年度にかけて、金利のさらなる急上昇や極端な円安や円高の懸念もあったが、現時点では危険水域には入っていない。

 問題はこのまま原油高が続く場合に、国内の生活防衛や経済活動維持のために、公的資金の投入が必要ということだ。投入がある水準を超えていくと、財政規律の緩みを国際市場が悲観して、円が過剰に売られてしまう。しかしながら、救済策は避けられない。ここは行革によるコストカットを前面に出してバランスを取るしかないであろう。

 いずれにしても、多事多難の中で高市政権は最初の危機をとりあえず生き延びた。この束の間の安定を、今こそ国内の3大改革に使い、加速しつつある日本経済の衰退トレンドを何としても止めていただきたい。

 改革の第一は、教育改革である。世界的に単純作業だけでなく、知的作業であっても定型作業はAIにより自動化される時代となった。人間に求められる知的活動は価値判断や未経験の事象への対処など高度な領域に限られる時代でもある。大卒5割の行き届いた教育体制を持つ日本だが、教育内容を変更して、こうした変化に対応しなければならない。同時に、移民への抵抗感が続くのであれば、現場を担う人材の底上げも求められる。

 そんな中で公教育が形式平等に縛られ、その結果としてエリート教育を塾に丸投げされていては、大学進学は富裕層に限られてしまう。この問題を解決するには、小学生の段階から科目別に能力にあった教材とカリキュラムを用意してキメ細かい到達度別教育を組むしかない。教育行政には英断が求められる。

 第二はデジタル対応だ。こちらは、民間ベースではかなり進んでおり、特に企業向けのネットバンキング、企業による顧客管理、生産管理、顧客サービスなどでは遅れを取り戻しつつある。問題は官公庁で、現在は市町村の業務に全国統一のシステムを適応させる大きな作業が進行中だ。このプロジェクトを何としても成功させたい。成功とは、DXがスムーズに動き、紙と両立することで不満を抑えることではない。徹底した簡素化、標準化を推し進めて、持続可能な水準まで行政コストを下げることが必要だ。具体的には住民サービスの提出書類や入力フォームの標準化が急務である。また、公的な姓名から「外字」の適用を制限して行政事務標準文字(ユニコード内)に収めるなどの改革も必要だ。

 第三は雇用改革だ。現在、日本の多くの企業では人事制度が混乱している。売り手市場の新卒には40万円の初任給を提示する一方で、指導役の3年目社員等との逆転現象が放置されている。一方で、デジタル・リテラシーの欠落した世代を、定年まで面倒を見ている。この種の世代間の矛盾を是正するには、年功序列の廃止だけでなく、解雇規制の緩和に踏み切る必要もある。

 それ以上に大事なのは、職務の明確化だ。同僚が産休入りすると、周囲の業務量が増えて不満が出るなどというのは日本だけだからだ。教員が事務仕事と保護者対応で疲弊して、本来の業務である授業準備ができないなどというのも同じである。職務記述書にある内容以外の仕事を「してはいけない」という世界標準を日本は習得しなくてはならない。

 雇用改革については、日本型雇用が生産性を誇ったのは前世紀の話であって、今は、その曖昧さが生産性の敵となっている事実を理解すべきだろう。その点の理解のない経営者を追放することから始めるべきで、そうでなければGDP一人負けが続くことになる。

 高市総理について懸念があるとしたら、支持母体が「保守層」ということだが、教育の悪平等、DXへの忌避、日本型雇用への固執などというような「経済成長の敵」まで「守る」ようなら、日教組など「左の守旧派」とまったく変わらないことになる。保守とは川の流れのようなものであり、時代の流れに沿って、必要な変貌を遂げることで連続性と拡大を続けて大河に至る思想のはずだ。高市氏にはその真髄を実現し、最後まで第三の矢を放つことを禁じられた安倍晋三氏の無念を晴らしていただきたい。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)