NYで日本社会の「今」を読み解く

評論家・批評誌〈PLANETS〉〈モノノメ〉編集長

宇野 常寛さん

 ニューヨーク日系人会で10日、評論家、宇野常寛氏(44)の講演会「日本社会の「今」を読み解く」が開催された。宇野氏は多様なメディアで活動し、ポップカルチャー、ソーシャルメディアと文化などを広く分析、批評する稀代の評論家で、当日は日本社会の「今」について、NYから日本を見守る日本人・日系人に向けて、今の日本の問題の本質は何かを、鋭い視点で深く多角的に解説した。

 また、日本と日本人が情報社会をより正しく生き抜いていけるよう、彼自身が取り組む社会活動「遅いインターネット」計画についても報告した。同講演会は、東京大学同窓会のNY銀杏会、東京大学ニューヨークオフィス、グローカルビジネスをプロデュースするNPO法人ZESDA(運営事務局)の共催で、ニューヨーク日本総領事館が協力した。当日は日系人会の会員や東大同窓生ら60人余りが参加した。

 宇野氏は「現代はSNS社会」であるとして、その3つの特徴を挙げた。(1)相互評価のゲーム(承認の交換)=誰かに「承認」されることが極めて低コスト(「いいね」)など。しかし、短期的な充足しかないために反復し、中毒する。逆にそれがプラットフォーマーの狙い。(2)失われる話題の多様性=この相互評価のゲームでは「既に話題になっていること」に言及し、かつ「支配的な意見にイエスかノーかで答える」のが最も効率が良いため、話題も意見も多様性が失われる。(3)閉じる世界=その結果として世界は閉じ、「民主主義も機能しなくなる」と問題を指摘した。

 そもそも「閉じた相互評価のネットワーク」の何が問題なのかという点について社会の分断(多様化しない、社会から多様性が失われる)、同調圧力の強化(他人の顔色を伺って自分の考えを決めるようになる)、人間がバカになる(発信すること自体が快感となり物事を考えなくなる)などを例示した。

 そこで3つの提案として立憲主義の強化(憲法改正のハードルを上げる、違憲審査を強化する)、普通選挙の決定権を相対的に下げる(クラウドローなどの利用による専門家のルールメイキングなどを導入する)、インターネットを「遅く」する。さらにこれから必要なことは「ちゃんと書く」ことで「考える」方法を身につけること。「いいね」するのではなく「コメントを書く」ことで「考える」方法がつく。となると、今は「個人」の時代なので「書かない人」は存在しないのと同じになる。個人が自分のステイトメントを書いて発信できない人間は、評価経済的に存在しないに等しい。「書く」「発信する」ことで世の中との距離感を身につけると説明した。

   会場からは、電子頭脳(AI)の進化により人間の考える領域が狭まってくるのではないかという質問に対して、宇野氏は「作者の紹介や人物歴など誰が書いても同じようになるもの、調べてわかるものはAIに任せてもいいと思っている。AIは解答、答えを導くツールであり、人間はAIにはできない『問題の提起』をすることに能力を発揮すべき」など話した。

 日本の見失われた世代、ロストジェネレーションの最後尾を代表する世代に属する宇野氏はサブカルチャーをテーマに普段日本で著書やテレビなどで評論してきているが、その世代がすでに高齢化の中に入ってきていると言う。「10%や20%なら気がつかないかもしれないが、体感として自分たちが子供だった頃の半分くらい、日本から若者が消えているのを感じる。地方に行ったら歩いているのは高齢者ばかり。東京だって若者がいるだろうなと思う場所にしかいない。そして想像以上に今の若者は貧しい。海外に出たくても経済的に出られない。交換留学と言っても日本の大学の地位が海外と比べて低下していてうまくいかなくなっている。そんな中で若者の気持ちも内向きになっている」と現状を話す。「今の日本には自力救済できる力がない。海外で生きている皆さんは、逞しく生きて来られて、海外での闘い方も知っていると思う。今の日本の若者に手を差し伸べてほしい、助けてやってほしい」と最後に締めくくった。(三浦良一記者、写真も)


 【プロフィール】うの・つねひろ=評論家。1978年生。批評誌〈PLANETS〉〈モノノメ〉編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『母性のディストピア』(集英社)、『遅いインターネット』(幻冬舎)、『水曜日は働かない』(ホーム社)など多数。立教大学社会学部兼任講師。2022年10月『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)発売。ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』金曜日パーソナリティ(2013年4月-2014年3月)、J-WAVE『THE HANGOUT』月曜ナビゲーター(2014年10月-2016年9月)。日本テレビ『スッキリ!!』木曜日コメンテーター(2015年4月-2017年9月)等を担当。