グローバルな人材を育成する

海外子女教育振興財団 理事長

綿引宏行さん

 昨年6月に日本で成立した在外教育施設振興法の内容をシカゴとニューヨークの日本人学校関係者に説明するためこのほど来米した。米国にはシカゴ、グアム、ニューヨーク、ニュージャージーの4校の全日制日本人学校と82校の補習授業校がある。「法律を生かすも殺すも教育現場の皆さんの考え方一つなので、よく理解していただき子供達のために活用して欲しい。そのためにできることがあったら一緒に取り組んで行きましょうと言って回ってきました」という。自身も10年ほど前に米国東京海上のCEOとしてニューヨークに滞在し、ニューヨーク日本人教育審議会の役員をしていた。当時から日本人教育施設が、サスティナブルな形で残っていけるのかという思いはあったという。企業が現地化を進めていくと駐在員が現地の人に置き換わり、帯同する子供の数も減ってくる。一方で、国際結婚する日本人や永住者は増えてくる。日系米人世代も4世の代になり日本の伝統も薄らいでいる。海外の現地の商工会議所も含め50年前から当たり前にやってきたルールが今、間尺に合わなくなってきているので、もう一回ゼロベースで海外教育の枠組みを考え直す時期にきたことが振興法成立の背景にある。

 新法では「次代の社会を担い、国際社会で活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に資する」ことや「在外教育施設の連携」、「在外教育施設を国際交流の場、日本文化紹介の発信拠点とする」こと、「在留邦人の子以外であっても入学を希望する者を受け入れる」ことが4つの大きな柱になっている。

 「今まで国際交流は大人同士でやってきた。現地の子供同士で交流する機会が少なかった。生徒数が少なくなったから廃校にしたらどうかという結論を出す前にやれることはまだまだあるのではないかと言っているんです。国際交流拠点であれば、企業としてもその新たな価値を見直すこととなります。企業はその土地で日本のことが好きだという人がいるから仕事ができているのですから」。学校経営の安定化の上でも現地化推進は急務だ。

 「人口がどんどん減っていく日本の状況の中で、どういうふうに世界の中で日本としての役割を果たしていけるのか、そのためにどういう人材が必要なのか、どうやったら育てていけるのかがこれからの課題です。振興法というのは、在外で学んでいる子供達への、日本の国が、日本社会が皆さんに期待していますよという明確なメッセージなんです。今まで、海外子女は日本の将来の原石だと言われていましたが、原石だって磨かないとダイヤモンドにならない。財団のミッションは、在外で学ぶ子供たちが、日本の将来のコモンセンスを形成する原動力になること、日本の次の新しい時代の常識を作っていくことを実現させることです」。(三浦良一記者、写真も)


■財団メモ

 海外子女教育振興財団(JOES)は、海外子女・帰国子女教育の振興を図るため、 1971 年に外務省および文部省(現 文部科学省)の許可を受け、海外で経済活動を展開している企業・団体によって設立された財団法人。海外赴任者・帰任者のための教育相談・情報提供や、日本人学校・補習授業校への財政上・教育上の援助等をはじめ、政府の行う諸施策および維持会員の要望に相呼応して幅広い事業を展開・実施している。


衆院予算委で首相に要請
日本人学校と補習校支援

萩生田元文科相

 萩生田光一自民党政務調査会長・元文科相が1月30日の衆議院予算委員会で、岸田首相に対して在外日本教育機関に対する日本政府の支援を求めた=写真(国会中継の動画から)=。この中で萩生田氏は、現在世界に全日制日本人学校が世界49か国と1地域に94校あり、補習授業校は、同54か国と1地域に230校が存在していると述べ、在外の日本人学校が、海外で働く企業の人たちがお金を出し合って設立した私立学校がほとんどであり、本来義務教育で学ぶ権利のある子供達の教育がいわば現場任せになっていて、その中身もバラバラだ。日本政府がもう一歩前に出て少しずつ応援するべきではないのかと述べた。少なくともある程度の実績を有する学校に対しては、私学助成の仕組みも参考にしながら支援すべきであるとした。説明の中で、小学生、中学生の時代を海外で学ぶ子供達は、将来の日本の未来を担うグローバル人材の原石であるとも述べた。

 これに対して岸田首相は海外の日本人学校は、グローバルな人材を育てる上で重要な存在であるとした上で、選ばれる在外教育施設、国内同等の教育環境の整備、派遣教員の充実、専門分野のアドバイザーへの支援などの環境整備が必要で、今後国際人材の育成にも前向きに検討していきたいと述べた。

 国会答弁のやりとりは国会中継で動画公開されており、海外でも無料で閲覧が可能。