メルボルンからシドニーへ

ジャズピアニスト浅井岳史のオーストラリア旅日記(4)

 オーストラリア4日目の朝となると少し時差ボケが楽になってきた。今日はメルボルンからシドニーへの移動であるが、コンサートの主催地メルボルンでの観光が昨日一日では申し訳が立たないので(笑)、シドニーへの移動を昼過ぎにして午前中もいることにしていたのであった。アップタウンのカフェでゆっくりと朝食。ここはコーヒーの種類が多いし、ペイストリーも充実している。初春の朝の清々しい日差しのnaか、外のカフェで非常に良い時間を過ごした。
 ホテルへの帰りにもう一度街を散策。もうすっかりお馴染みの町並みであるが、やはり演奏が終わった安堵感なんだろうか、すべてが輝いて見える(笑)。ワイン専門店の歩道には葡萄が植えてあり、小さな房がなっている。ふと見るとブロッコリーも生えている。葡萄とブロッコリーは共生するのかと驚いて見ていると、店の若いお兄ちゃんが出て来て「冗談だよ」と手に取って笑っている。騙されて癪ではあるが、オーストラリア人のこの明るさは旅行者には嬉しい。
 それにしても、このあたりは見るからにブームタウンである。お洒落な商業エリアは古い建物をどんどん吸収して広がっており、お金があればここら辺りのビルを買っておけば良い投資になると思う。ましてやここに寿司屋やラーメン屋を出せば絶対当たると思う。
さて、これでメルボルンとお別れ。Uberはすぐに来る。今度の運ちゃんはカトマンズから来た男性で、奥さんと子供を国において、いつか呼び寄せられるように今一生懸命にここで基盤を作っているのだそうだ。でも、どんどん地価が上がっているそうで、不動産の取得は難しいとのこと。他にもチョモロンマ(現地語でエベレスト山)のことなど興味深い話をしているうちに空港に到着。
 さて、2度目のカンタス機である。ラッキーなことに滑走路からの搭乗となったので、例の白地に赤い尾翼、そこに白抜きにされたカンガルーのマークを間近で見ることができた。気分が盛り上がる!
 1時間ちょっとでシドニーに到着。夏のように暑い。ここは非常に鉄道が便利にできていて、たった15分でセントラル駅に到着、そこから歩いてすぐにホテルである。ここはメルボルンに比べると大都会でどことなく東京を思わせる。新宿南口に降りたようだ。
 実は、次の日にシドニーのクラブに出演する話をいただいていたのだが、ラストミニッツで超大物ジャズミュージシャンのツアーに取られてしまった。無名の音楽家はこういう時、立場が弱い。したがって明日と明後日と2日間、シドニーは観光になってしまったのである。が、初めてのシドニー、仕事をしている場合では無い(笑)。思い切り遊ぶことにした。随分と時差ボケから解放されてきたので、早速電車に乗って有名なオペラハウスに行く。駅のホームから電車の感じからして、これは絶対に東京だ! 懐かしい。
 15分くらいでハーバーの駅に着いた。ホームからすでに海と海岸に立つ白いオペラハウスが見える。急いで駅を出て近くまで行ってみる。思ったよりもずっと小さい建物だが、夕暮れの最後の陽を反射して白く綺麗に映える。反対側には、これも有名な大きな鉄橋が見える。そのまま「ロックス」といわれる旧市街へ。レンガの古い建物が並び、そこには洒落たレストランが並ぶ。どこかに入ってゆっくり食事したいが、観光地で食事するのも高くつくし、なぜか疲れが出てきたので、ホテルに戻ってその辺りで軽く済ませることにした。また電車に乗って15分でホテルに戻る。
 ホテルの周りはB級グルメの宝庫であった。何気ない路地に赤い提灯がかかっていて小さなチャイナタウンになっていたり、大きなフードコートに安い定食屋から、麺物屋、自分で材料を見繕って焼いてもらう料理店など、たくさんの中華料理屋が出ていて、ここは一瞬香港かシンガポールかと思うくらいである。西洋社会でこれは珍しい。昔勤めていた会社では、環太平洋の地域をまとめてアジア・パシフィックと言っていたが、この国ではそれを肌と舌で感じることができる。そう、ここはアジア・パシフィックなのだ。
 シドニーは洗練されていて便利で住みやすそうな街である。これは明日からの2日間が楽しみだ。早速、明日はフリーウォーキングツアーに参加することにして消灯。     (続く)
(浅井岳史/ピアニスト&作曲家)www.takeshiasai.com