最高裁、在外邦人の国民審査投票を認める

 5月25日最高裁判所は在外邦人が最高裁裁判官の国民審査に投票できないのは違憲とする判決を下しました。

 判決は国民審査権を「憲法に明記された国民の権利」と認めました。国側が最高裁裁判官は内閣の任命であり「国民審査は選挙権より軽い権利」と主張したことを否定したのです。国

会が制定した法律や憲法を審査する「憲法の番人」である最高裁裁判官を国民が解任できる権利は極めて重いものです。その「審査される側」の裁判官が自らを解任できる国民の権利を認めて「主権在民」を証明しました。逆に最高裁は、国民に信託されているからこそ、国会をもしばる強大な力を持てるのです。

 国側はまた投票用紙の裁判官名の印刷にかかる時間を反対理由に挙げたのに対し、判決は投票方式の変更を示唆しました。在外ネット投票導入の追い風です。

 他方国民審査は準備期間が長いために首相の解散時期の決定に影響すると問題視する人もいます。しかし、日本と同じ議院内閣制の英国には首相の解散権の乱用を防ぐ制度があります。日本でも政治的思惑での解散を防ぐ意味でも国政選挙の準備期間を充分にとるべき

です。この間に裁判官を任命した政府の理由説明や裁判官の実績を国民に伝えることができます。日本銀行総裁、原子力規制委員会委員長、公正取引委員会委員長などは国会が同意するための審議を行いますが、国民審査でも任命した政府が説明責任を果たすべきです。

 最高裁は対応を怠った国会や政府の不作為を指摘しました。金子恭之総務大臣は5月27日「在外投票を可能とするための具体的な方策を早急に検討する」と次期衆院選までに国民審査法を改正する考えを示しました。

 この不作為の認定は行政法上も歴史的であると言われます。第一に東京高裁判決が否定した国家賠償請求を認容した。第二に全面的な立法不作為の場合でも、憲法判断を行えるとの判断を示したことです。

 原告の1人で映画監督の想田和弘さんは「司法は三権分立の一翼を担う。主権者が関心を持って国民審査を機能させないといけない」と語りました。1月の林芳正外務大臣による在外ネット投票署名の受け取りに続く在外邦人の皆さんの勝利です。

ふじた・ゆきひさ=水戸一高、慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。対人地雷禁止条約加盟、アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。世界52ヵ国訪問。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長