着心地の良いウールのスーツ

イケメン男子 服飾Q&A69

 今回はウール/羊毛について書いてみます。皆様におかれましても普段ビジネス用からプライベートな御洒落用まで一番御利用されているのがウールを生地として用いたスーツ、ブレザーやジャケット、スラックスそしてコートなどではないでしょうか。
ウール、シルク(以上動物繊維に分類)、コットン、麻(以上植物繊維に分類)といったいわゆる「四大繊維」は私たち人類との関わりが長くまた深く、ウールについては9000年を越える歴史があると言われております。特に原毛が採れる羊は食用であることも大きなポイントでもありました。かつてのモンゴル帝国の世界制覇も移動する食料と衣料品の供給源でもある羊が騎馬隊と動きを共に出来たことが大きな理由であったのでした。
 ウールの歴史の中でエポックメイキングだったのが14世紀スペインにおけるメリノと呼ばれる高級種の羊の開発・改良であったと言われております。この種は毛の色がほぼ白、原毛の品質も素晴らしく、さまざまな色に染めるのが容易となり、インスタならぬ(笑)仕立て映えする生地が織られる様になったのですね。現代においてメリノ種の羊は主にオーストラリアとニュージーランドを中心に放牧、飼育されており、特に
オーストラリアにおいては9000万頭いると言われております。
 さて、ウールのどのような特性が長い間私たちに愛用されてきた理由なのでしょうか?
 まずコットンや麻と比べて、①シワになりにくく、シワとなっても回復が早い(スラックスのクリースもウールが一番取れにくいですよね)、②型くずれしにくい、③色の経年変化が極めて少なく色落ちがない、といった基本的な特徴がいくつもあるわけなのですが、中でも一番の良い点は身体に優しいということではないかなと。つまり寒い冬の時期には暖かく、そしてこれからの暑い時期には涼しいのです。ウールは外気が低い場合は身体の
熱を逃がさず、逆に気温が高い場合には汗など水分を吸収して身体の熱を発散させるのです。実はウールはコットン以上に水分を吸収出来、その上自ら蒸発させる機能もあり、そのため涼しく感じさせてくれるのですね。もしかしたら皆様も ウール地のスーツが水に濡れた際に意外に早く乾いたことに気づかれたことがあったのでは? 対してコットンのシャツやジーンズは乾くの遅いですよね。と言っても乾燥機が常識なアメリカでは関係ないですかね(笑)。そうそう、出来上がった製品のサイズが安定していることもまたウールの良い点でしょうか。
さあ これから夏本番、夏用ウール地ウール・トロピカルでカッコ良く、心地良く過ごしましょう!
けん・あおき/日系アパレルメーカーの米国代表を経て、トム・ジェームス・カンパニーでカスタムテーラーのかたわら、紳士服に関するコラムを執筆。1959年生まれ