メルボルンのジャズクラブ

ジャズピアニスト浅井岳史のオーストラリア旅日記(2)

 昼夜が真逆になってしまったが、なんとか朝を迎えた。ホテルの窓からはアップタウンの鄙びた街並みに家具屋、楽器屋、レストラン、カフェが並ぶ。その上空をなんと気球が飛んでいる。どうやら今日は祭日のようだ。慌てて動画を撮ってみた。何やら面白そうである。
 朝食で街に出る。昨日歩いたアップタウンに行ってみたが、時間が早いのか、祝日だからなのか、店がたくさん閉まっている。開店準備中のイタリアンカフェに入ってコーヒーとクロワッサンを注文。
 昼に今回のツアーの首謀者であるピーターがホテルに来てくれた。彼は私たちが遠くニューヨークから来ているというので気を使ってくれて、私たち夫婦をダウンタウンまで連れ出して豪華なランチをご馳走してくれようとする。その気持ちは本当に嬉しいのであるが、私は時差ボケが非常に辛いことと、そんな中で今夜メルボルンのジャズクラブ、Dizzy’s Jazz Club でトリオ演奏があるので、なるべくホテルで休みたい。わがままを言ってホテルから歩けるところにあるイタリアンでパスタをいただいた。彼としては、街で一番気に入った中華料理か日本料理をと思ってくれていたと思うが、ごめんなさい。食事をいただいたら、やはりホテルに戻って休憩、起きてからその晩演奏する曲のソングリストを作る。
 演奏の日程は、今回はニューヨークのマネージャーがまとめてくれた。よくまとまったのか、強硬スケジュールなのかは紙一重で、到着して次の日に早速一番ハードなトリオの、しかも結構名門なクラブでの演奏があり、その次の日は午後のピーター主催のコンサートと夜のクラブでのソロピアノがダブルヘッダーで組んである。これは実はかなりきつい。ヨーロッパでの演奏では、時差がなくなるまで3日間遊んでいられたことがたいそうな贅沢に思える。
 でも、頑張るしかない。夕方起きてシャワーを浴びUberでDizzy’sへ。運転者は南米からきた移民であった。移民の立場から、オーストラリアがどんな国かを聞ける良い機会であった。日本を凄く良い国だと思っていてくれた。
 街は意外と小さいので、すぐに会場に到着。今回はオーストラリアのミュージシャン2人とトリオを組む。ベーシストのベン・ロバートソンとドラマーのダニー・フィッシャー。ニューヨークのミュージシャンのつながりでお願いした。なんと私が普段ニューヨークで演奏しているドラマーとは兄弟弟子であり、世の中が非常に狭いことを改めて実感。
 とてもレトロでお洒落な建物の2階がジャズクラブで、その1階のレストランでバンドメンバーと食事。生粋のオーストラリア英語が耳に心地よい。夏に過ごしたロンドンのアクセントと似ているが少し違う。隣にいた若いカップルが、自己紹介しに来てくれた。なんと私を聴きに来てくれているのだという。なんという光栄。
 時間となり上階のクラブへ移動。やはり時差で眠い(涙)。チェコ製のPetrofというグランドピアノが置いてある。美しいピアノだ。ちょっとだけチューニングが甘いが、何とかなるだろう。問題は時差ボケだ。頑張らねば。
 祭日とあってお客さんはたくさんは来てもらえなかったが、日本の会社員時代の繋がりで来てくれた人、現地のファンのかた、ありがたいことに、行きの飛行機で知り合った新しい友達ジムがメルボルンの女性を連れて聴きに来てくれた。まさに、一期一会だ!
 リハ無しで、初めての共演者、初めての土地、かなりの時差ボケで非常に苦しいステージであったが、最後は盛り上がってくれた。この2人のミュージシャン、腕も人柄も本当に良い。クラブオーナーの若いカップルも本当に良心的で採算を度外視してギャラをくれた。感謝感激である。が、演奏はもっと上手くできたと思う。そう思うと悔しくて、ホテルに帰ってもなかなか寝つけなかった。
 明日はハードな1日だ。昼間は教会でのソロコンサート、夜はクラブでのソロ、同じソロでもソングリストは違う。頑張って寝なければ。(続く)
浅井岳史、ピアニスト&作曲家 / www.takeshiasai.com