トランプ界隈の怒りの正体

 2週間の停戦になったとはいえ対イラン「エピック・フューリー」作戦は結局、何が目的だったのでしょう? 最初は「核開発を断念させる」だったのが次は「攻撃能力を壊滅させる」、そして今や「石器時代に叩き戻してやる」。明らかな戦争犯罪構成要件であるこの民間インフラ全損宣言のどこに、イースターの朝に忌み言葉を使って相手を罵り「せいぜいアッラーを讃えてろ」と侮辱する根拠があるのでしょう。

 そういえばトランプばかりか戦争長官ヘグセスの会見も毎回憤怒の形相です。トランプ政権は本当にいつもよく怒る。トランプ支持者たちもよく怒る。

 1940年から活躍した英国の児童精神医学者ジョン・ボウルビーによれば、非常に権威主義的な親の下で自分の感情を抑圧して育ち上がった子はその人生を通じて感情の表現が下手な「愛着障害」という傾向を持ちがちになるのだそうです。感情を表現することは弱い者や女のやることだと叩き込まれ、喜びや愛情、悲しさや寂しさ、優しさや楽しさの表出を脆さや弱さの現れだと信じるようになる。けれどそうやって感情を押し込めていても自分の思いはどこかに出口を求めるのです。閉じ込められ、抑圧されていた”脆弱さ”は、出口を求めながらもなおも蓋をされる。そこでその感情を、弱さ脆さとは逆の形の「怒り」として表出するようになるのだそうです。

 トランプ支持者たちが頻繁に怒りを露わにするのには訳があります。移民に対して怒る。トランス女性に対して怒る。黒人に対しても怒る。言うことを聞かないとまた怒る。トランプがまさに彼らに怒りの矛先を示し、抑圧されていた感情を怒りとして表出するパターンを示したからです。なぜならトランプ自身がそうだから。あるいは、人間的な柔らかな感情を怒りとしてしか表出する術を持たなかったのです。

 トランプはその怒りをディールの脅しとして利用し、支持者たちには政治基盤として植え付けた。何に対してもとにかく怒る。反対されたら怒る。指示したことができなかったら怒る。政治から退いて10年以上も経つオバマが撒いた、全てのDEI(多様性、公平性。包摂性)政策をキャンセルする。そうやって怒ることでしか発散できない──それは政治ではありません。

 そうすると冒頭に挙げた「エピック・フューリー」作戦の名は、はからずもその攻撃動機の正体を表しているのかもしれません。「叙事詩的(なほどに壮大な)怒り」作戦。つまり抒情詩を書くことを許されなかった男たちの、抑え込まれたやり場のない感情が怒りの形で噴出している作戦──。

 「愛着障害」の確たる証拠と見るには論拠が弱いですが、しかし見てください、トランプに関係する者たちの離婚回数の多さを。

 トランプは2回、ヘグセスも2回離婚して今の相手は3人目です。イーロン・マスクやスティーヴ・バノンは3回離婚しています。愛情を語れない男たちが和平交渉などできるはずもありません。彼らにとっては、だから全てがディールでしかないのです。

 これらは全て、マノスフィア(男世界)、トクシック・マスキュラリティ(有毒な男性性)、解放運動に乗り遅れた男権主義と関連しています。「男らしさの呪縛」──現在の世界の毒素の多くは、「愛着障害」を抱えるこの「男」界隈に漂っているように見えます。

(武藤芳治、ジャーナリスト)