MANGA in New York その心は?

 ソニー企業株式会社が手がける銀座ソニーパークプロジェクトは、マンハッタンのスタジオ525(西24丁目525番地)で、10月27日から今月5日まで「マンガ・イン・ニューヨーク」を開催している。2024年に完成予定の「新・銀座ソニーパーク」始動に向けた海外で初の実験的エキシビションで、6組のアーティストが「パイオニア」「夢」「多様性」「創造性」「好奇心」「誠実さ」の価値観に合わせた作品を発表している。

(写真) 展示会場で作品を説明するソニー企業株式会社代表取締役社長・チーフブランディングオフィサー、永野大輔氏。後方の作品はますだみくの『インタールード』(10月27日、チェルシーのスタジオ525で、写真・三浦良一)

 会場は、オリジナルのマンガにソニーのテクノロジーを掛け合わせ、その作品が展開する場面の匂いや水没したマンガ場面を見ながら歩くと水中歩行の感触が伝わるユニークな刺激を盛り込んでいる。体感型とは言っても、6作品に共通しているのは、あくまで表現方法として「日本のマンガのフレームワーク」をしっかりと守った2次元の世界を構築していることだ。

 ソニーはアニメ『鬼滅の刃』など人気作品も手がけているが、ソニー企業株式会社の永野大輔社長は「皆さんに知られている作品を持ってくる方法もあったが、それだと作品、コンテンツのプロモーションになってしまうので、あくまでマンガのフレームワークを伝えるということにこだわった。今回、マンガというフレームワークを使ってソニーがやっているソニーパークという試みがユニークなものであると感じてもらいたいし、パークがユニークならソニーもユニークだということになる」と。

 同社は2018年から21年まで東京銀座の自社ビルの工事過程の途中を都市公園として市民に開放し、大都市の中の公園のあり方の新しいモデルの定義を作りだそうとしている。その原点になったのが2016年に永野社長が当時ニューヨークで見たチェルシー地区の鉄道廃線高架レール跡を公園にしたハイラインであり、ミッドタウンのかつては荒廃した危険な場所から見事に復活したブライアントパークだった。「公園っていうのは、余白部分があって、来園者の方に使い方を委ねている所があります。来園者が使い勝手を決める。そこで気持ちを静めたり、エキサイトしたりモードチェンジするんです。今回チェルシーという、いわば世界のアートのど真ん中に異質なマンガを持ってきたのも、マンガを切り口にしたモードチェンジの公園を表現する実験としてこの場所にマンガを持ってきたのです。マンガはアートに寄り過ぎないニューヨーカーやアメリカ人に好まれそうな画風を選んで持ってきています」という。

 そこにはマンガがアートに近づいて行ったとしても、アートの牙城であるチェルシーで、アンディー・ウォーホルと競えるのかというとそれは土俵が違うと自認するアートへの畏敬の念が働いている。ウォーホルが生きていて16ページのグラフィック・ノベルズを描いたり、リキテンシュタインがコマ割りでアメコミを描いたりすればARTとMANGAの歩み寄りにはなるだろうが、日本のマンガは、アートとは次元の異なるポップカルチャーであり、むしろ文学の延長線上にある存在だということを会場に足を踏み入れた来場者たちは感じ取るはずだ。それを意識させる6作品は、構想提案から2か月でネームを作り絵を仕上げたという。参加作品と作者は次の通り。『うえだとささみ』(一乗ひかる)、『ウォーカーズ』(寺田克也)、『電遊道中膝栗毛』(たかくらかずき)、『案内人』(平岡政展)、『インタールード』(ますだみく)、『ドリームピル』(ミレニアム・パレード)。 

混沌東京描くDREAM PILL

2次元でも臨場感ミレニアム・パレード

作品の展示空間に立つ左から佐々木さん、荒居さん、森さん(10月27日、Studio 525 で)

初めての創作だからこその鮮度

 銀座ソニーパーク・プロジェクトが主催するマンガ・イン・ニューヨーク(Studio 525/西24丁目525番地)に参加している日本人アーティスト6組のひとつ、ミレニアム・パレードは他の作家たちとは異色だ。同チームは、プロデューサー/ソングライターである常田大希を中心とした、ミレニアム世代のミュージシャン、映像ディレクター、CGクリエーター、デザイナー、イラストレーターなどさまざまなセクションを内包する新しいスタイルのバンドだからだ。

 作品『ドリーム・ピル』は、西暦2045年の東京をイメージした仮想世界「混沌東京」で享楽的な生活を送る少年Aがドリームピル(夢見る薬)を手にして新たな没入体験を得る内容。展示会場に足を踏み入れると水没した部屋の床を踏みしめるような体感をソニーの技術を駆使して得られる演出が施されている。アニメ『攻殻機動隊SAC2045』、細田守監督『竜とそばかすの姫』の主題歌を務めるなど音楽による漫画世界との関わり持ってきたメンバーだが実際に自分たちの手でマンガ作品を創作するのは今回が初めての挑戦だったという。

 ストーリー設定を担当した佐々木集さん(31、京都府出身)は「16ページの中でどう世界を表現していくか新しいチャレンジだった」と語り、メインビジュアルの森洸大さん(33、神奈川県出身)はアートディレクションとグラフィックパートを担当、全体の絵の監修をした荒居誠さん(33、岐阜県出身)はエアブラシを自作してアプローチの独自性を探ったという。一コマ一コマが絵画のような書き込みと退廃した近未来の大都会の陰影に若者がどう対峙するかが丁寧に描かれる。かつてケント紙にGペンで線を引いていた漫画家たちがペインターツールでデジタル画像を操る現代だけにどう描くかではなく何を描くかを問う作品で勝負している。展示は今月5日まで。  (三浦)