パーク街の中庭に庭園、住民憩いの場を創る

 マンハッタンのグランドセントラル駅より南側で、マジソン街から3番街まで広がるイーストサイドの閑静な住宅街は、マレーヒルと呼ばれる。このエリアのパークアベニューに建つコープビルは、戦前からの建物も多く、住民も長年住んでいる人たちが多い。そのビルに囲まれ、置き去りにされていたコンクリートの空き地だった場所に、住民が季節おりおりの鉢植えをアレンジして住民憩いの庭園に創り変えたことが、地元マレーヒルで話題となっている。

 この庭園をボランティアで6年半かけて作ったのはビルに住む日本人女性、森田法子さん(68)。「人間、歳をとると人工的なものに囲まれるより自然の中でホッとする時間が必要になるんですね」と話す。隣接する建物の窓から園芸作業をいつも見てくれていたフレンドリーな女性が、大きな植木鉢を寄付してくれたり、中庭を見下ろす隣人にとっても季節を感じさせる憩いの場所になっているようだ。

 春先、真っ赤なボケの花に始まり、枝垂れ桜のピンク、ペチュニアの紫、ニューギニアペイシャントの白、五月には、石楠花、つつじの桃色、百合と薔薇の芳香、紫陽花、葵の白とラベンダー、そして、秋、最後のシーズンは菊。オレンジ、黄色、紅色とモントークデイジーの白が庭を彩る。地面がコンクリートなので直接草木を植え込むことができないためすべて鉢植えだ。パティオテーブルを2か所に設置して食事を楽しむこともできるようにした。

 5月にはこの庭園で結婚式を挙げたいという住民カップルがいたが、市の結婚局はパンデミックで休業中。オンラインで結婚届は出したものの何とか式を挙げたいという希望を叶えたのが同じく住民で牧師の資格があるガーデン・コミティメンバーのトーマス・グラネルさん。森田さんの夫、繁実さんとグラネルさんの妻ヘレンさんが結婚式の証人として立ち会ったという。この結婚式がきっかけで、ベビーシャワーの集いや、誕生会など住民が利用できるガーデンとして使われるようになったそうだ。

 庭には鳥の巣箱、風鈴もつけたが、風鈴がうるさいという思わぬクレームも住民からあってびっくりしたことも。音楽は右脳、騒音は左脳で処理する脳機能が英語と日本語の発音処理をする東西文化で異質性があると角田忠信の著書『日本人の脳』『左脳と右脳』を読んで納得したという森田さん、風鈴の紙を重くして大きな音が響かないように工夫してことなきを得たそうだ。

 今回の住民による中庭の緑地化は、ビル管理会社からも「不動産の価値を上げるのに役立っている」と喜ばれているそうで、今では、不動産ブローカーがコープ入居希望者に最初に見せるのがこの中庭の庭園になっている。あるとき、住人のドイツ系女性から「Thank you for a little paradise. (ほんの少しの楽園をありがとう)」と言われた。森田さんの心の中に、パッと明るい花が咲いた。(三)

(写真)中庭の庭園創りに寄与した左からグラネルさん、妻のヘレンさん、森田さん