就職内定取り消しも、ハマスとイスラエルの紛争大学に

 ハマスとイスラエルとの紛争が激化するなか、学生の全国組織「パレスチナ正義の学生たち(SJP)」が「抵抗の日」を宣言して12日、ニューヨーク市立大学やアリゾナ大学、カルフォルニア州立大学など全米の大学200の支部でデモが行われた。親イスラエルと親パレスチナの学生の間の対立が深まり、双方から暴行や嫌がらせが報告されている。

 マンハッタン北部にあるコロンビア大学は12日、関係者以外のキャンパスへの出入りを制限すると発表し、13日にキャンパス内で予定されていた大規模なパレスチナ支持集会を回避した。入構制限はイスラエルの男子学生が図書館前で女子学生に棒で叩かれた事件がきっかけという。男子学生はハマスに連れ去られた人質のポスターを持っており、口論になったとみられる。警察は容疑者の女子学生(19歳)を逮捕した。コロンビア大学では「パレスチナに正義をコロンビア学生の会」などがパレスチナ支持を表明している。

 ニューヨーク大学法科大学院の学生弁護士会のライナ・ワークマン会長(24)は、ハマスの攻撃による「多大な命の損失はイスラエルに全面的な責任がある」として、パレスチナを支持する声明を発表した。ロイ・マッケンジー学部長は、学部の見解ではないとし、民間人の殺害やテロ行為は許されないと非難した。ワークマン氏を内定していたウィンストン&ストローン法律事務所は10日、同社の見解と相入れないとして雇用契約を解消した。

パレスチナ系市民が抗議

市長「イスラエルと共に」

抗議行進するパレスチナ系住民(13日午後5時半、42丁目で、三浦良一撮影)

 エリック・アダムスNY市長は2日夜、イスラエルのための追悼集会で親パレスチナ支持者を非難し、週末のテロ攻撃を正当化できないと訴えた。

 アダムス市長はゴルダ・メア広場で議員たちとともに、ダビデの星をかたどったキャンドルを灯した。「罪のない子どもたちを家から引っ張り出し、殺害し、通りを引きずり回し、遺体に足をかけた。我々が目撃したことを正当化することはできない。誰もこれを祝うべきではない」と述べた。

 ここ数日、中東からもたらされた悲惨な映像や画像をめぐり、抗議行動が衝突している。アダムス市長は、イスラエルの9・11として知られつつあるものを祝う人々を非難し「私は、人々が鉤十字を掲げている抗議行動を見ている。アフリカ系アメリカ人が自由と生存権のために戦おうとしたときにも、同じ鉤十字のシンボルが使われた。これはあらゆる境界線、一線を越えている」と訴えた。

 また、周囲を取り囲む数百人の参加者に対し「ニューヨークはイスラエルとともにあり、イスラエルの人々には自らを守る権利があると信じている」と述べた。この集会には、ジュマーン・ウィリアムズ行政長官とアントニオ・レイノソ・ブルックリン区長、他の選出議員やラビたちが多数参加した。

パレスチナ支持者就職に不利の見方

 ハーバード大学ではハマスがイスラエルへの大規模攻撃を開始した7日に、すぐさま33の学生団体が連名で「パレスチナ情勢に関するハーバード・パレスチナ連帯グループによる共同声明」と題した声明文を発表した。ハーバード大学パレスチナ連帯委員会が執筆したもので「進行中の暴力はすべてイスラエル政権に責任がある」とイスラエルを非難した。(1面に記事)

 声明は全米の注目を集め、共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は9日、「ハーバードはいったいどうしてしまったんだ」とX(旧ツイッター)で反発した。ヘッジファンド大手パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントのビル・アックマン氏など数人の実業家がハーバード大学に対して署名した学生の氏名公表を要求し、その学生は採用しないとXで公言。サラダチェーンを運営するスウィートグリーンのジョナサン・ネーマンCEO、ヘルスケアサービス企業イージーヘルスのデービッド・デュエルCEOらも続いた。

 ハーバード大のクローディン・ゲイ学長は10日、「テロリストによる残虐行為」とハマスを強く非難する声明を発表した。ハーバード大学学生会のうち17団体は500人余りの教職員と共に共同声明を通じて「イスラエル批判声名は完全な間違い」と指摘した。

 保守系の団体は大学のキャンパス周辺で11日、声明に署名した学生の氏名と写真をさらす宣伝トラックを走らせ、ネットにも掲載した。ニューヨークポストは、この日までに4団体が支持の立場を撤回したと報じた。金融業界や弁護士業界にはユダヤ系が多く、パレスチナ支持者は就職に不利との見方がある。

NY日本総領事館

デモに注意喚起

 ニューヨーク日本総領事館は、ニューヨーク市内におけるイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突に伴う抗議活動の発生について在留邦人に対して注意を喚起する呼びかけを行っている。内容は次の通り。

(1)イスラエルとパレスチナ武装勢力の衝突に伴い、今月8日以降マンハッタンのタイムズスクエア、国連本部付近、イスラエル総領事館前(2番街の42丁目と43丁目の間)などでは大規模な抗議活動が実施され逮捕者が出ている。

(2)今後も双方の支持グループが参加して同様の抗議活動が実施されることが予想され、参加者が多い集会やデモ会場付近では、抗議活動がエスカレートし警察と衝突したり、またそれをきっかけとして参加者を巻き込んだ暴動に発展したりする可能性がある。

(3)在留邦人の皆様は、今後もこういった抗議活動には常に留意し、自身の生活圏において現在何が起きているのかを報道などで最新の情報入手に努め、デモや集会が行われる可能性のある場所や周辺(1に言及した施設周辺に加え、モスク、シナゴーグ等の宗教施設を含む)には、目的なく不用意に近付かないなど、不測の事態に巻き込まれないよう、十分注意する。

 また、ニューヨーク日本総領事館ウェブサイト内にある「ニューヨーク安全マニュアル」(https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/jp/j5/ny-anzen-manual_2023.pdf)を参考にする。