ボルトン氏の暴露本刊行へ

差止請求を棄却
ワシントンDC連邦地裁

 ワシントンDCの連邦地裁は20日、米司法省が申し立てたジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の回顧録『The Room Where It Happened(それが起きた部屋)』の出版差し止め請求について、これを棄却した。回顧録は予定通り23日に出版された。

 トランプ政権は「回顧録には機密情報が含まれており、国の安全保障を危うくする」と主張し、16日に出版差し止めを求めていた。これに対し連邦地裁は、すでに回顧録は書店に配送済みで内容も報じられていることを指摘、元の状況に戻せないことから「出版差し止めが適切な措置とはならない」とした。

 ただし地裁は機密の有無についての政権の精査が終わっていないと指摘した。ボルトン氏は機密は含まれていないと主張しているが、これが間違っている場合は著作から得る利益を失うとした。トランプ大統領はこうした点をツイッターで指摘し、「法廷での大きな勝利だ」「彼は市民を空爆し殺すのが好きだった。こんどは自分に爆弾を落とした!」と投稿した。

 ボルトン氏は回顧録のなかで、トランプ大統領は「行き当たりばったり」で、「衝動的で驚くほど無知」と酷評。再選のことしか考えていないと指摘している。例えば2019年6月、中国の習近平国家主席との会見で「ウイグル族の強制収容所」を容認する一方、自身の大統領再選を後押しして欲しいと訴え、「米国の農作物を買うよう」に中国に求めたという。また大統領3選の可能性についても話したという。選挙を自分に有利にするために外交や外国勢力を利用したとすれば重大な連邦法違反となる。

 ウクライナ疑惑では、大統領がウクライナへの軍事援助を棚上げするよう指示したこと、それがバイデン前副大統領の疑惑を捜査するよう圧力を掛けるためであったとしている。また、フィンランドはロシアの一部ではないのか、英国は核保有国なのかと聞いたりと、ひどい無知であるとしている。

 回顧録には、トランプ大統領が日本に対し在日米軍撤退をちらつかせて現行の4倍となる年間約80億ドル(約8500億円)の防衛費負担を求めたことも書かれている。負担増について日本政府は「そのような事実はない」(菅義偉官房長官)と否定していた。回顧録に書かれた韓国、米国、北朝鮮の首脳協議について韓国チョン・イヨン国家安保室長は22日、「事実を大きく歪曲している」と批判した。

 ボルトン氏はジョージ・ W・ ブッシュ大統領政権で国務次官、国連大使を務め、2018年4月から19年9月までトランプ政権の国家安全保障問題担当補佐官として働いたが、トランプ大統領と北朝鮮問題などで意見が合わず辞任した。イラク戦争を強力に推し進めるなどタカ派として知られる。