検察局は殺人と断定

地下鉄ホームレス死亡事件

実行者逮捕されず

 ニューヨーク市の検死局は5月3日、地下鉄の車両内で元海兵隊の男性に取り押さえられ死亡したジョーダン・ニーリーさん(30)の死因は首への圧迫によるもので殺人だと発表した。殺人と裁定されたが故意や過失があったことを意味するわけではなく、マンハッタン地方検事局は調査中としている。8日時点で元海兵隊の男性は逮捕されていない。

 事件は5月1日午後2時30分頃、ブロードウェー・ラフィエット駅に向かう地下鉄F線北行きの車両内で起きた。目撃者やソーシャルメディアに投稿されたビデオなどによると、ニーリーさんは「食べ物も飲み物もない、刑務所で終身刑を受けることを気にしない」「死ぬ準備ができている」と叫んでいた。乗り合わせた乗客の多くは駅に着くと一斉に逃げ出したが、うち男性数人がニーリーさんの取り押さえにかかった。この時、元海兵隊員のダニエル・ペニーさん(24)がニーリーさんの首を絞め、別の男性が腕を押さえた。警察が駆けつけ、ニーリーさんはレノックス病院に搬送されたが、死亡が確認された。ペニーさんは警察に事情聴取されたが逮捕されず、帰宅した。

 ブロードウェー・ラフィエット駅では3日、ニーリーさんの追悼集会が行われた。黒人のニーリーさんは地下鉄でマイケル・ジャクソンの物真似をする大道芸人で、ソーシャルメディアでも人気のダンサーだったという。一方でニーリーさんは過去、少額の窃盗や改札を飛び越える行為や女性への暴力などで40回以上の逮捕歴があり、ホームレスになっていた。精神疾患を患っており、父親の話によれば幼い頃に母親を殺されたことがずっと精神的トラウマになっていたという。

 エリック・アダムスNY市長は3日、「人命が失われたのは悲劇だ。ただ何が起きたのか分からないことがたくさんあるため、ここではコメントを控える」としつつ、「深刻なメンタルヘルスの問題が発生している、必要としている人にケアを受けられるようにしたい」との声明を発表した。

 市のブラッド・ランダー会計監査官は「精神障害者が自警団員によって首を絞められて死に至るような都市になってはならない。もしくは殺人者が正当化され、応援されるような場所には」とツイッターにツイートした。これに対しアダムス市長は「捜査が進行中であり、無責任だ」と批判した。

 ダニエル・ペニーさんの弁護士は、「ダニエルはニーリー氏に危害を加えるつもりはなく、彼の早すぎる死を予見することもできなかった」と述べている。

(写真) 事件があったブロードウエー・ラフィエット地下鉄駅(写真・中村恵理)