架空の現代版姥捨山物語を映像に

映画監督

早川 千絵さん

 少子高齢化が進む近い将来の日本。満75歳から生死の選択権を国民に与える法律「プラン75」が施行される架空の設定を描く映画「PLAN75」。4月21日からのNY公開に際し、来訪する早川千絵監督にお話を伺った。

 「このテーマで短編を2018年に発表した時に、映画で描かれている状況は怖いけれど日本ではあり得ないという意見が多かったのですが、コロナのパンデミックで世界で起こっていることや日本政府の対応を見て昨年にこの長編が公開されると、有り得るかもしれないという反応でした。そして社会的に弱い立場の人たちが排除されることは既に起こっています」

 78歳で一人暮らしのミチ(倍賞千恵子)はホテルの清掃の仕事を失い、再就職ができない。住み慣れた団地の取り壊しも決まるが引越先を得られなくて、プラン75を選択する。プラン75推進事業の窓口担当者ヒロム(磯村勇斗)や、電話で申請者の最後のケアを担当する瑤子(河合優実)。

 「彼らは決して冷たい人間ではなくて、むしろ優しさも見せる若者です。でも日本人は決まったことの規則に従うことに子供の頃から慣れていて、自分の考えで行動を起こすことが出来ないということを描きたかったのです。彼らは真面目に与えられた仕事に取り組むのですが、施設での実際の状況を想像する力が足りないのです。これは若い人たちだけではなくて、今の日本の人々の姿です」

 早川監督は多くの場面で台詞に頼らず人物の顔の表情や身体の動き、雰囲気、色調や音響で観客の想像力を刺激するストーリー展開のスタイルを取っている。

 「小学生の頃は本を読むのが大好きで小説家になりたかったし、音楽や写真も好きだったのですが、すべての要素で物語を語る映画が一番いいと中学生ごろに思うようになりました。ニューヨークのSVAの映画学科に入学したのですが英語がついていけなくて、すぐに一人でできる写真専攻へ代わりました。でも写真でストーリーを造形し、人間についてのディテールや人と人の関係性、心の機微を表現したくなり、ビデオカメラを買って撮り始めました」

 早川監督の初長編作である「PLAN75」はまさに映画でしか体験できない表現法を見事に結実させ、観る者を考えさせる。 (平野共余子)

 「PLAN75」公開 はNY (IFC Center)が4月21日、 ロサンゼルス (Laemmle Glendale) が5月5日、それに続いて全米。詳細は https://www.kimstim.com/film/plan-75/ 早川監督の質疑応答は4月21、22、23日にIFC Centerで。詳細は: https://www.ifccenter.com/films/plan-75/