我が追憶のラブストーリー

山村美智・著
幻冬舎・刊

 元フジテレビアナウンサーで女優の山村美智さんの新著『7秒間のハグ』(幻冬舎)の出版記念バーチャルレセプションが10月27日に日本と全世界を結んで行われ、216人が参加した。同書は、山村さんの夫でミスターフジテレビと言われた宅間秋史さんとの出会い、結婚、ニューヨーク生活、そして宅間さんの食道がんとの闘いと夫婦の愛と絆を一冊にまとめたノンフィクションだ。

 1980年にフジテレビに入社した山村さんは、後に「オレたちひょうきん族」のベストテンコーナーの司会に抜擢される。山村さんの目を通して当時の元気いっぱいの日本の民放の躍動感が伝わってくる。

 本のベースにあるのが、「モダン会」というフジテレビで入社時期の近い5人の男女の仲間たちの友情だ。仲間と言っても仕事上、共に働いたことはない。ネットワーク部の遠藤龍之介、営業部の永山耕三と宅間秋史、ワイドショーにいた寺尾のぞみ、アナウンス部の山村美智の5人。海に行ったり、プールパーティーを主催したり飲み会をしたりする気の合う仲間だ。

 山村さんは、そのモダン会の仲間だった宅間さんと結婚。退社し、2003年から08年までの5年間を夫のニューヨーク駐在に伴って当地ニューヨークで生活した。山村さんは、駐妻だけの時間と立場に物足りなさを感じ、自分の中にある芝居に目が向いた。山村さんは、フジテレビに入社する前の大学生時代、「東京キッドブラザース」の役者だった。日本で上演した二人芝居を英語で上演するプロジェクトを始めて2年半後の2007年、NYのオフブロードウエーで二人芝居「I and Me & You and I」を上演した。「ニューヨーカーたちが膝を叩いて大笑いし、鼻を啜りながら泣いてくれたことをとても印象深く覚えています」と振り返る。共演した加山雄三の娘で女優の池端えみも体当たりの演技を見せた舞台だった。

 2019年7月、自宅の電話が鳴った。夫からだ。「みっちゃん、ごめんね・・・食道がんだった」。さらりと明るい声で夫は告げた。そして翌年12月18日午後10時44分。宅間さんは旅立った。本書は、その1年半の闘病生活と夫婦の絆にページの大部分を割いて描いている。描写はまるでテレビドラマを見ているようだ。

 もし「モダン会」をモデルにしたテレビドラマがあったなら出演者は誰だろう。本を読み終え、勝手に配役を考えてみた。全員が28歳頃のイメージで、後にフジテレビの社長、副会長となる遠藤龍之介役に三宅裕司、「東京ラブストーリー」「ロングバケーション」などヒットを生んだプロデューサー永山耕三役に時任三郎、ミスターフジテレビの夫、宅間秋史役に福山雅治、主人公・山村美智に名取裕子、NYへ渡米する寺尾のぞみ役に片平なぎさ、か。もちろんタイトルは「7秒間のハグ」。相手を理解しようとする愛情ホルモン「オキシトシン」が湧き上がるという「ナナハグ」は、夫の宅間さんと山村さんが結婚当初から決めた夫婦のスキンシップだ。

 幻冬舎の社長、見城徹氏から「血を流さないといい本は書けない」と言われた。山村さんは「愛という名の血」をこの本で輸血が必要なほど注いでいる。(三浦)