誇り高きトランパー

 一夜明けた4日朝、勝敗の行方はウィスコンシン、ミシガン、ジョージア、ペンシルベニアあたりがカギを握ります。投票前は全米で8%ポイントのリードでバイデン大勝という見方もありましたが。いやいや前代未聞の激戦になりました。

 理由の1つは1億人を超えた期日前投票、郵便投票で「民主党に有利」という報道のアナウンス効果でしょう。これでトランプ支持者が刺激され、結果トランプへの投票も大量に増えた。勢いこの票が上院共和党への票にも流れ、上院の民出党多数派もすんなりとは行きません。

 「大勝」とは別のシナリオは、投票日の票はトランプ有利の「赤い波」として出るだろうから、それがその後に追い上げる郵便バイデン票によって「赤い蜃気楼」に変わらぬうちにトランプが一方的に勝利宣言をするというものでした。そして郵便投票は(これまでの主張通り)「不正だ」「無効だ」として裁判に持ち込む。そこには最終的にエイミー・コニー・バレットを加えた最高裁が待ち構えている、というものです。

 4日未明のトランプの勝利宣言(めいたもの)は、「不正」の言葉もそのままにまさにその通りの物言いでした。それから夜が明けて、バイデンはこれも予想通りに逆転を射程に入れてきましたが、さてこれは果たして届いたかどうか。

 今回、いろいろな人に話を聞いて思ったのは、トランプ支持者がもう隠れていないということでした。4年という「実績」の中で、彼らは誇り高きトランプ支持者になったようです。コロナで23万人の死者を出した失政に関しても「コロナ前まではうまく行っていた」「コロナさえなければ満点だった」「コロナは彼のせいじゃない」とかえって結束を強める論理になりました。

 白人至上主義や陰謀論に関しては、その種のカルト的支持者は置くにしてもトランプは「人格的にはとんでもないジャーク」という評価は一致しています。しかし長年の共和党支持者には減税やアメリカ第一主義、エルサレムのイスラエル首都宣言や保守派最高裁判事の任命などがその意に添うのです。

 ただ、彼はそれらの政策を、反対勢力への憎悪をエネルギーに推し進めてきた感がある。それがアメリカの分断を煽ってきたのです。

 『ハーブ&ドロシー』などで知られる映画監督の佐々木芽生さんと話をする機会がありました。アメリカの片田舎に暮らしたことのある彼女は「社会に見捨てられ、仕事もなく娯楽もなく情報格差で時代についてもゆけない」トランプ支持の低学歴低所得白人労働者たちの怒りを説明してくれました。

 それを聞きながら、一方でBLM運動の土台である黒人たちの苦境を思い出していました。ああいま分断の核にいるこの2つの種類の人たちは、実は同じ怒りの中にいるのではないか? 前者は自分たちのアイデンティティを奪われたと感じ、後者はそれをあらかじめ与えられてこなかったと憤慨している……だとすれば彼らは、戦う相手を間違えているのではないか、と。

 今回、たとえバイデンが大統領になろうとトランプ支持者は誇り高く存在し続けるでしょう。その分断は一筋縄では行きません。

 ただ唯一の希望は、ジョージ・フロイド事件を境に今年のBLMを支えるようになった新しい主体、ジェネレーションZ(Z世代)と呼ばれるいま18〜23歳ほどの若者たちが、人種やジェンダーや思想信条の境界を越えて連帯できる兆しを示してくれたことです。私たちはそのアメリカと付き合うしかありません。

(武藤芳治/ジャーナリスト)