黄緑のネームプレート

赤川次郎・著
光文社文庫・刊

 中学生くらいで教科書以外の本を読もうと思ったとき、読書好きの友人から「最初は赤川次郎から始めるのがいいらしいよ」と言われて読み始めたミステリー。難しい言葉や表現を避けた優しい文章と登場人物たちの軽妙なやりとりが読みやすく、面白くて次々読んでいったことを覚えている。その 「ライトノベルの達人」 赤川次郎を皮切りに、トラベル・旅情ミステリーの西村京太郎や内田康夫、山岳ミステリーや密室事件ものを経て、場面描写が巧みな真保裕一や理系ミステリーの森博嗣にはまり、さらに気軽に読める東野圭吾、イヤミスの湊かなえ、宮部みゆき、桐野夏生などの小説を楽しんで来た。特に最近人気がある「イヤミス作品」。ハッピーエンドとは無縁で残酷な展開も多く、読後感がすっきりせず後味が悪いと分かっていてもついつい読んでしまうことから「イヤな気分になるミステリー」の意味だが、赤川次郎作品はそんなイヤミスとは無縁の 「健全な」 物語を長い間つくりだしてきた。
 赤川氏は1948年生まれの現在71歳。76年に『幽霊列車』でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。以来、三毛猫ホームズシリーズや三姉妹探偵団など約20ものシリーズのほか、映画化された「セーラー服と機関銃」や「探偵物語」などの多彩な作品を書き分け、毎年10冊以上を刊行してきた。そしてついに2017年、著作600冊を突破する金字塔を達成。軽妙なユーモアのあるミステリーで老若男女問わず愛される物語を送りだす、国民的ベストセラー作家として活躍し続けている。
 ところで、本書『黄緑のネームプレート: 杉原爽香〈46歳の秋〉』は88年から続く人気シリーズで、今回で23作目。第1作目『若草色のポシェット』で杉原爽香は73年5月9日生まれの15歳(中学3年生)という設定でデビュー。親しかった級友が殺されてしまう事件に遭遇し、第一発見者だったことから容疑もかけられるが、持ち前の行動力と観察力で解決に導いた。それから毎年秋に刊行される同シリーズで1歳ずつ年を重ねながら、そのつど何らかの形で事件に巻き込まれている。登場人物が読者とともに年齢を重ねる世界的にも例の少ない「長期的な連続小説」をコンセプトに30年以上に及ぶ同シリーズは、一作一作が独立した作品ではあるが、もはや連続小説というより超長期連載の様相となっている。
 88年に15歳だった爽香はさまざまな事件を解決しながら大学卒業後、13作目(2000年)の27歳で同級生の明男と結婚、就職した会社でプロジェクトリーダーとして成功し、22作目(08年)に長女・珠美を出産。今作では10歳になる娘の珠美ちゃんの大人びた言動もファンにとっては微笑ましいはずだ。
 今回は殺人も起こらず、わくわくしながらページをめくっていた中学生のころに戻ったように赤川次郎を楽しめる。普段あまり読書をしない人も気軽に読める本書。ミステリーを読み始めたそれぞれの「あの頃」に戻って楽しんでみてはいかがだろうか。 (高田由起子)