窓辺のパンプキン

 ハロウィンの二週間ほど前に、ゲイルと、五歳になる彼女の甥のイーサンと三人で、パンプキンを買いに行った。そこは郊外の大きなスーパーマーケットで、外には何百個もの大小さまざまなパンプキンや、飾りつけに使う干したコーンなどが無造作に置かれている。リンゴも大きな袋に入って売られており、秋を感じさせる。

 まん丸で形がよくて、ヘタの長いのを選んでね。これはどう? 完璧な形よ、とゲイルがイーサンに言う。

 だが、イーサンはどれも気に入らない。

 No,I hate that.  I don’t want that.  That’s not what I want. 

 やだよ、そんなの大きらいだよ。そんなのほしくないよ。ぼくがほしいのは、そんなのじゃないよ、と、言いながら、延々とパンプキンの周りを歩き続ける。彼には彼なりの基準があるのだ。

 一時間も費やしただろうか(気の短い私はもちろん、ふらふらほかをのぞいて楽しんでいた)。おじいちゃんとおばあちゃんにひとつ、自分用にふたつと、大きなパンプキンを三つ選んだ。

 イーサンと私は待ち切れず、さっそく彼の家でひとつ、目と鼻と口をくり抜くことにした。私は十四年もアメリカに住みながら、jack-o’-lantern (カボチャちょうちん)を作ったことがない。

 自然に役割分担ができた。私がパンプキンをくり抜き、中身をほじくり出す。ゲイルはその中から種を拾い、塩をふりかけ、オーブンで焼く。そしてイーサンは、ホウキとチリトリを持ってきて、私たちが汚した床をせっせと掃除している。

 Hey, you guys!

 もうこれ以上、汚さないでよ、とイーサンが私たちに命令する。

 この you guys を子どもが大人に向かって口にするのを聞くたびに、アメリカだなと思う。guys は女の人への呼びかけにも使われるが、もともと、やつとか男という意味で、Hey, you guys! は、やあみんな、ちょっと君たち、といった感じだろうか。

 最後に、くり抜いたパンプキンの中に白いロウソクを立て、火を灯した。かなり不気味で、みんな、大満足だ。からっとローストされた種も、塩がきいていておいしい。

 ねえ、ダディ。パンプキンを窓のところに置いていい?

 リビングルームでテレビを見ている父親に、イーサンはしきりに頼んでいるが、願いは聞き入れられない。

 Hey, buddy! ハロウィーンは一週間先だから、まだ早いよ、と父親は言う。

 イーサンがHey, guys! なら、父親は Hey, buddy! だ。

 buddy は相棒のような意味で、Hey, buddy! も おい、という呼びかけだ。

 だって、外から見た人がびっくりしておもしろいよ、とイーサンは説得に必死だ。

 そうだ、そうだ、と私も密かに応援するが、それでも許可は下りず、不気味なパンプキンは人目に触れないキッチンに、ひっそり置かれたままだ。

 長く窓辺に置けば、それだけ長く楽しめるのに。ああ、もったいない。大人の考えることはまったくわからない。

 Hey, you guys.

 イーサンにこう声をかけられて、抵抗を感じるまでもないようだ。どうやら、私の精神年齢はイーサンと同じらしい。

 このエッセイは、文春文庫「ニューヨークの魔法」シリーズ第1弾『ニューヨークのとけない魔法』に収録されています。

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