バックトゥザフューチャー

 あの頃ワタシも若かった! 名匠スピルバーグの代表作「バックトゥザフューチャー」が封切られた年は、このワタシも花も恥じらう若干24歳! あの頃、太平洋の向こう側のアメリカは、過剰な富貴と底抜けの楽観を纏って燦然と輝いて見えたもんだ〜。ンン10年後に、同じアメリカでエンタテーナー兼糟糠の妻する事になるなんて、24歳の私は知る由もなかった! 今も鮮明に記憶に刻まれているのは、改造型タイムマシーン・デロリアンとヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「The Power of Love」。聞きゃあー元気モリモリ湧き出てくる長調の底抜けに明るい主題歌。なんつったって「愛の力」。万物は「愛の力」を持って解決可能と信じて疑わないっつーアメリカさんっぽーい名曲。 そんなアタクシの青春の思い出の一ページにも刻まれた、映画史上の名だたる大作のミュージカル化と来れば、期待せずにはおれないと言うもの。 が、しかーし、これまでハリウッド映画のヒット作の舞台化色々あったけど、「ヘアスプレー」等の稀な成功例を除くと無惨な結果に終わったミュージカル残骸が累々たる有様。 なので、期待しつつも、「嬉しいような怖いような」山本リンダ的心持ちで劇場に向かったのであった。  

 映画の舞台化をヒットに導くことは、前述のごとく至難の技だ。コアなファン心理を考え、換骨奪胎はダメ、かと言って、完コピもダメ。オリジナル命のファンから映画未見の若い層までを納得させる匙加減が実にムズイ!映画版の脚本家であったボブ・ゲイルがご自身が書いたミュージカル版の脚本は、ほぼ映画版と同じと言う安全路線。あらすじはドクが作ったタイムマシン、デロリアンに乗ったマーティは、30年前にタイムスリップ。思いもよらず、父と母の恋愛のきっかけを阻害してしまい、未来が変わってしまうことに気付いたマーティは両親の恋に復活させ、限られた時間の中で30年後に戻ろうと七転八倒する。 

 見どころは映画さながら、プロジェクションマッピングやレーザー光線などの最先端技術を取り入れた演出だ。映画ファンが覚えているだろう名シーンをくまなく入れ込み、可能な限りのイリュージョンも再現。おったまげたのは客席上を飛ぶデロリアンの特殊効果。今のブロードウエーはディズニーランドのアトラクションを超えたね。  

 粒揃いのキャストの中でドクを演じたのはトニー賞俳優ロジャー・バート。歌・芝居はもちろん、コメディセンスと間の取り方は日本で言えば植木等や伊達きみおレベル。そしてブロードウェイデビューでジョージ・マクフライを演じたヒュー・コールズはマクフライを完コピ!彼のものまねの実力は日本人で言えば、ちあきなおみbyコロッケ!のレベル。それを見るだけでも価値ありだ!  

 最大の弱点は音楽。観劇後、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「The Power of Love」と「ジョニー・Bグッド」以外、全く記憶に残っていない。気合いで調理した晩餐だったのだけど、塩気が足りなかったのか?火力が弱かったのか?レシピが間違っていたのか?なんなら「愛の力」&「JBG」以外割愛でいんじゃねってレベル(トホホ)  

 観劇前はリンダの気持ちで、恐る恐る観に行って、結果は意外や意外、甘酸っぱい青春時代に光り輝いていたアメリカさんの元気もらえるリピ確定の佳作なので、英語に自信がない人でも、老若男女問わず、多くの人が大満足するミュージカルだ。「オペラ座の怪人」のシャンデリアが見れなくなった今、ブロードウエーの目玉は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の空飛ぶ車、デロリアンに取って代わられたようだ。 いや〜、ブロードウエーって楽しいだけでなく、人生訓がいっぱい詰まった素晴らしいもんなんですね。

トシ・カプチーノ:キャバレー・アーティスト/ 演劇評論家、ジャーナリスト130名で構成されるドラマ・デスク賞の数少ない日本人メンバー。週刊NY生活「新ブロードウエー界隈」連載中。TV:TBS「世界の日本人妻は見た!」日本テレビ『愛のお悩み解決!シアワセ結婚相談所』「スッキリ」「ZIP!」studio82℉所属タレント