吐き気をもよおす人権弾圧

櫻井よしこ、楊逸、楊海英・著

ワック株式会社・刊

 ネットで日本の新聞広告を見て、面白そうな本が出たなと、編集部の書籍担当スタッフに、紀伊國屋書店のニューヨーク本店から、本紙の書籍用貸し出し本の一つとして持ってきてくれるよう頼んだ。タイトルは『中国の暴虐(ジェノサイド)』で、副題にウイグル、モンゴル、香港、尖閣の文字。ジャーナリストの櫻井よしこさんが「共産中国の非道を体験した二人からの日本と日本人への警鐘」を聞くという鼎談・対談スタイルの体裁にまとめられている本だ。

 話を聞いた相手は、ハルビン出身で、芥川賞を受賞し、現在日本大学で教鞭を執る楊逸氏と南モンゴル出身で静岡大学教授の楊海英氏の二人。中国のことについてはかなりの知識と持論を持っているはずの櫻井さんが、前文の中で「いまさらではあるが、私は雷に打たれたような気がした。二人の体験を聞くことは、胸に迫るもので、知っているつもりで知らないことが多かった。お二人にはたくさんのことを教えていただいた」という言葉にある種の新鮮さを感じ、読んでみることにした。

 同書の内容は、大まかに次のような項目で書かれている。2人がウイグルで実際に見てきたこと、国内外でジェノサイドを繰り返してきた中国共産党の話、実は漢人こそ中国共産党の最大の犠牲者であるとする意見、「東京は俺たちの縄張りだ」と中国の工作員がうそぶいたという話、軍事力、経済、歴史を過大評価することは中国の思うツボであるとする警鐘、「日本は一歩も引いてはならない」とう櫻井よしこさんの持論などが、雑誌の対談特集のようなわかりやすい言葉で認(したた)められている。

 トランプ政権時のマイク・ポンペオ国務長官、バイデン政権のアントニー・ブリンケン国務省官が中国の人権問題に対して中国政府に対してダイレクトに遺憾の意を伝え、日本以外の先進7か国とEU諸国が中国に対して毅然とした意思を表明している中で対照的な日本の親中外交についても厳しい見方をしている。

 新疆ウイグル自治区での職業教育という名のもとに男性が強制連行され、強制収容されている状況などが生々しく記載されている。家の男性が突如連れさられ、コンクリートのベッドの狭い部屋に20人あまりが詰め込まれ、鎖で繋がれ、トイレはバケツ一つが置かれ、寝るときは右側を下にして寝返りもしてはならない。残された家庭には、女性と子供だけがいて、そこに、監視役として知らない漢民族の男性が住み込み、主人のように振る舞っていることなどが明らかに。この現代社会でこんな非人道的なことが行われていていいのかと、思いたくなるが、テレビなどでは決まって中国外務報道官が厳しい表情で、内政干渉だと突っぱねるばかり。香港の新聞社を力ずくで閉鎖させて言論人を逮捕、自由にものも言えない独裁国家の恐ろしさを感じさせる。次回は中国を糾弾する側だけの対談ではなく、そこに中国を擁護する人間も交えての討論を櫻井さんにはお願いしたい。中華料理は美味しくて大好きだが、国家としての人権弾圧には吐き気をもよおす。(三浦)