世界の中での日本舞踊を伝えて

日本舞踊家
伊藤さちよさん(藤間さちよ)

「今度のさろんで、私の創作舞踊で自身が踊るのは最後だと思います」というメールが来た。「ありがたいことに手話も含め、いろいろな方がコラボレーションしてくださり、全力投球で頑張ります」とあった。「さろんシリーズ」は日本の芸術紹介を目的とした公演とフォーラムで、一回一回、どのプログラムもテーマが違い、ユニークでスペシャルな内容。第65回目の公演となる「ヒューマン・スピリット」が9日、天理文化協会で開催された。
 人種や土地を問わず、同じヒューマンスピリットに焦点を当てた内容で公演最後で客席に置かれた赤い布切れをひとつに結んで環を作った。「最後のぼろ布は私自身絶望のぼろぼろでもあり、人類の歴史の悲劇の結果でもあり、救われるためには愛の絆が、結ぶことで、最後観客の一人ひとりが参加していただくのが大切というメッセージが伝われば」との思いがあった。
 伊藤さんが立ち上げた「サチヨイトーアンドカンパニー」は、日米の文化交流を目指し、1981年に設立された非営利法人団体。ニューヨーク市で恒例のブルックリン植物園桜祭りでの定期公演のほか、学校や美術館などの公共施設での公演、慈善公演としては市の子供たちのためのワークショップや養護施設訪問などを行っている。
 日本では、高等部からいた青山学院大学時代、授業が終わると近くの喫茶店で着物に着替えアメリカンクラブへ日本舞踊を教えに行っていた。同大を72年に卒業後、来米。アメリカンダンスフェスティバルで米国デビュー、73年に当時ジャパン・ソサエティーにいたシロタ・ベアテ・ゴードンに見い出され、アジア・ソサエティーから全米公演した。「日本の舞踊だけを知っていても比較文化として教えることができない」と世界の舞踊も研究して博士号も取得。長年ニューヨーク大学で客員教授を務め、ジュリアードスクールなど各地の大学で教授、2008年に約40年の日米文化交流貢献を称えられ外務大臣賞を受賞、11年にはカンパニーの30年の市への貢献を認められニューヨーク市長宣告賞受賞している。
 さて、今回自身最後と覚悟を決めて立った舞台。歌あり詩の朗読ありの盛りたくさんの舞台だった。翌日、メールが来た。「今回で最後、と考えていましたが、お客様からの良い評判が会場だけでなく、メールも多くいただき、エネルギーがチャージされました。躊躇です。頑張るしかないですね」とあった。まだまだいける気になったようだ。(三浦良一記者、写真も)