コンゴのサプール黒編

写真家 SAP CHANO
学研プラス・刊

 サプールとはコンゴ共和国(首都プラザビル)とコンゴ民主共和国(首都キンシャサ)、ふたつのコンゴで90年以上継承されるファッション文化だ。平和を尊び争わず、平均月収3万円ほどの稼ぎをやりくりして「エレガンスな装いこそ人生のすべて」という生き方を貫く。
 両国は、ボートで5分ほどの距離だが、フランス植民地だったプラザビルとベルギーの植民地だったキンシャサとではファッションセンスも大きく異なる。
 カラフルだがコンサバなスーツスタイルのプラザビルに対して、かつて「キンシャサの奇跡」と言われた伝説の地には、枠にはまることなく自由に生きるファッショニスタが街を闊歩している。そんなキンシャサのサプールたちを熱狂させる一番のブランドが「Yohji Yamamoto」なのだ。
 筆者で写真家の茶野邦雄ことSAP CHANO氏は、2015年からサプールを取材し始めた。カラフルな原色のサプールだけがSAPEURだと思っていたCHANO氏が、キンシャサで目にしたのは、ヨウジヤマモトしか着ないサプールの存在だった。その背景には、こんなエピソードがあった。
 キンサシャ出身のミュージシャン、故・パパウェンバ氏が、時の独裁政権、モブツ大統領から国民服を着るよう強制されたにもかかわらず、それを無視してヨウジの服を着てステージに立ち続けたという。当然、モブツ大統領は面白くない。彼を逮捕しようとしたが、圧倒的な人気と影響力を考えると混乱は目に見えていたので、諦めて厳重注意に留めたという。
 このことを契機に、ヨウジの服は逮捕をも免れる免罪符的カリスマ性をまとうことになる。国民の中にヨウジを着るサプール文化が広まり、いまでは、コンゴ人にとってはファッションブランドを超えて、ヨウジはコンゴ人の自由や平和の象徴となっているのだと筆者は語る。
 CHANO氏は今年3月、パリコレに出ていたヨウジさんを訪ねた。この本のテーマであるサプール文化の芯を貫く1つの魂。それにあやかって付けた「Yohjiを愛したサプール」というタイトルの使用許諾を求めた。「大丈夫ですよ」と許可してくれた。
 192ぺージにおよぶこの写真集には、そんな粋で情熱的なサプールの男達の姿が生き生きと写しだされている。表情とさまざまな組み合せのファッションが実に新鮮だ。前作のカラフルなサプールとは真逆のモノトーン。写真集のメインはヨウジヤマモトをまとうキンシャサのサプールを撮り下ろした作品、3月パリ在住のコンゴ人サプールを取材した未発表写真を巻末に掲載している。ファッションが生きざまとして表現されるパッション。それが鮮烈な写真の一枚一枚から伝わってくる。(三浦)