日米首脳会談に浮沈をかける菅総理、その思惑は?

あめりか時評閑話休題 冷泉彰彦

 日米首脳会談というと、ゴルフや会食を通じて首脳間の個人的な信頼関係を構築するものという印象がある。トランプ政権時代はそうせざるを得なかったが、あくまで日本の国益を守るための例外的な行動だった。実際には双方の外交当局が事前に政策を調整した上で、首脳が会うことで最終的な決定がされて、共同記者会見なり共同声明として発表されるのが正式だ。

 今回、4月16日の菅総理とバイデン大統領の会談は、そのような「あるべき姿」に立ち戻るということであり、この点は評価すべきであろう。しかも現在までの報道では、かなり具体的なテーマ設定がされているようだ。安全保障の問題に加えて、3つの分野に関して日米での作業部会の設置が検討されているという。

 1つ目は、新型コロナウィルス対策だ。バイデン政権は巨額の補正予算でワクチン接種を加速している。その上でワクチンの剰余が出るようであれば、国際的な協力も惜しまないとしている。首脳会談を契機として、アメリカから日本へのワクチンの提供が得られるかもしれない。

 2つ目は、新技術、特に情報通信分野における協力だ。アメリカは日本の半導体製造インフラなどをテコ入れして、中国を外したサプライチェーンの強化を狙っている。日本としては、これを経済成長に結びつけたいという思惑だ。

 3つ目は、気候変動への対策だ。日本は化石燃料依存体質を強めてきたが、菅政権はこれを脱却すると既に言明している。だが、その方法論が定まらない中で、アメリカがどう支援するか注目がされる。

 というわけで、この3点については、もしも具体的な合意ができるようなら、日米関係は強化され、日本の経済社会にもプラスとなるであろう。だが、問題は日本の国内事情である。

 菅総理は、コロナ対策と五輪問題で支持率が低迷しており、解散のタイミングを見つけるのが難しい状況となっている。コロナでは専門職の柔軟な増員のできない硬直した制度のために、PCR検査も、コロナ病床もフレキシブルな対応は不可能となっている。また厚労省や官邸には、できない理由を語る自由もないようだ。

 一方の五輪については、費用の問題もさることながら、国内では外国からの選手役員の例外入国への反発があるし、ワクチン接種の進まない日本での大会には海外から不安の声もある。ということで、開催も中止も判断できない曖昧な状況が続いている。いずれも、菅総理の能力の問題ではなく、日本型組織の弱さが露呈されているだけだが、世論はその不満を官邸にぶつけており、総理は求心力維持に必死の状況だ。

 そんな中で、この3点の日米合意というのは、支持率浮上に役立つであろうか?この点にも不安がある。まずワクチン問題だが、仮に米国の協力で供給がされても、国内の反ワクチン世論が噴出すると厄介だ。また、接種は医師に限り、住民票のある市町村区でしか接種はできない制度下では、供給が増えても接種は進まない懸念がある。

 半導体等の技術・経済協力については、世論の反発はないかもしれない。だが、仮にGAFAの日本進出が更に強化されても、日本が部品工場と市場として、より外資の食い物にされるのでは本末転倒だ。

 最も心配なのが環境政策だ。ここへ来て菅総理は、福島第一原発の冷却に伴って蓄積された微弱な放射性物質を含む汚染水を、海洋放出する方向で腹をくくっている。この判断が、部分的な原発再稼働の実現に結びつき、化石燃料依存体質を緩和できればいいのだが、反対に汚染水問題で一気に世論が硬化すると、日本のエネルギー政策は排出ガスゼロ化を達成できなくなる。

 菅総理は訪米成功によって、支持率をアップさせ、あわよくば解散総選挙で政権のテコ入れを図る考えのようだ。だが、コロナ、五輪、原発などについて、疑心暗鬼にかられている日本の世論の「心のヒダ」が、総理の思惑通りに反応するかは全く楽観を許さない。

(れいぜい・あきひこ/作家・プリンストン在住)