文明のもろさを笑いで刺す One Green Bottle

作・演出・出演の野田秀樹氏にインタビュー

「表に出ろいっ!」英語版

 日本演劇界を牽引する劇作家・演出家・役者の野田秀樹さんが舞台「ワン・グリーン・ボトル」(「表に出ろいっ!」)英語版を2月29日(土)から3月8日(日)までニューヨークのラ・ママ実験劇場(東4丁目66番地)で公演する。同劇場は、70年代に寺山修司作品を上演するなど、日本の現代演劇や実験的な作品を米国にいち早く紹介してきた劇場だ。ニューヨーク公演に向けて野田さんに抱負などを聞いた。(聞き手・岡崎香)

—8年ぶり3度目のニューヨーク公演です。
野田
「楽しみですね。ニューヨークにはまた芝居を持っていきたいと思っていたし、ラ・ママといえば僕のなかでは寺山さんという印象がある。ニューヨークに住む日本人以外のお客さんにも来てもらいやすい気がします。大きさや雰囲気も、今回の芝居に合っているんじゃないかな」
—上演作品は、家族を描いたスラップスティックな3人芝居「One Green Bottle(ワン・グリーン・ボトル)」。2010年に野田さん、故・中村勘三郎さん、黒木華さん・太田緑ロランスさん(Wキャスト)で上演された「表へ出ろいっ!」を、新進気鋭の英国人脚本家ウィル・シャープを迎えて英語版にリメイクしたものだ。17年に東京で初演され、以降、韓国、イギリス、ルーマニアを巡演。各地で大好評を得ている。 
野田
「英語翻案してくれたウィルが、いまの若者文化に詳しいこともあって、オリジナルよりも現代性が強く、なおかつ、より家族の話になっています」
—物語の舞台は、ある格式高い伝統芸能の家元が妻子と住む自宅。飼い犬が出産間近で誰かが家で面倒を見なければならないのに、その夜は家族3人それぞれに、どうしても外出したい理由があった。互いに一歩も譲らず、なんとか自分だけは家から脱出しようとする3人。留守番の押し付け合いは激しいバトルに発展し、思わぬ事態を引き起こす……。
野田「家元の父はテーマパークを愛し、母はボーイバンドに夢中。娘はコスプレ好きで、スマートフォンばかり見ている。そんな3人家族がそれぞれが好きなものに固執するばっかりに、一夜にして崩壊していく話です。昔からよく聞く「文明の脆さ」という言葉も、きっと実感できると思いますよ」
—その根底には、人々の関心が内向きになり、他者への不寛容が広がる世界情勢への危機感もある。
野田「世界中に情報の網が広がっているようで、実はそこから届くものは非常に限定的なのが、いまのネット社会。関心事を端末に打ち込むほど、自分の趣味にカスタマイズされた情報ばかり届く「ナルシストの社会」になっているからこそ、いろいろな人に観てほしいと思っています」
—また、「ワン・グリーン・ボトル」は男優が女を、女優が男を演じる点も大きな見どころだ。英語版「THE BEE(ザ・ビー)」にも出演したグリン・プリチャードが娘役、本人も「自分でもおばちゃん役に対する違和感はまったくない」と言うほどハマっている野田さんが母役、そして、新たに参入するリロ・バウアーが父を演じる。
野田「リロは、僕が英国留学した時に受けた最初のワークショップの授業の先生でもあった素晴らしい女優さん。その素晴らしい身体性にも喜劇性にも期待しています」
—加えて、歌舞伎囃子方の田中源一郎さんが生演奏。狂騒的な舞台に、品格と迫力と彩りを与える。ちなみに、野田さんにとって初めてのニューヨーク公演は、第1回ニューヨーク国際芸術祭に参加した1988年。「彗星の使者(ジークフリート)」をBAMで上演した。次いで、2012年にジャパンソサエティーで「THE BEE(ザ・ビー)」上演があり、今回が3回目となる。
野田「ニューヨークへは、20代の終わりから30代の頃はよく行っていたんですが、意外と自分で芝居はやってないんですよ。僕がオペラや歌舞伎を演出するのもその一環だったりするんだけれども、自分が慣れ親しんだ場所とは違う環境に身を置いて表現することというのは、いくつになっても大切で必要なことだと思っているし、自分が作った世界を、まったく知らない人の前でやってみる行為というのは、芝居を作る人間の原点だと思っています。せっかくのニューヨーク公演なので、ぜひ日本人以外のお友達も連れて、ラ・ママへいらしてください」

ラ・ママ実験劇場で2月29日から8公演

公演期間:2月29日(土)から3月8日(日) まで。開演時刻は月曜から土曜が午後7時、日曜午後5時、火曜休演。
会場:ラ・ママ実験劇場(Ellen Stewart Theatre/La MaMa Experimental Theatre Club http://lamama.org/)
住所:東4丁目66番地(66 East 4th Street /between Bowery & Second Avenue)
交通機関:地下鉄Fトレイン・2番街駅、Rトレイン・8番通り駅、6番トレイン・アスタープレイス駅)
チケット料金:35ドル、学生・シニア30ドル+設備費1ドル。ボックスオフィス(建物内メザニン階1)は開演1時間前にオープン。
電話による購入 212-352-3101
詳細はウェブサイト lamama.org