色彩美に芸術の力

千住博が現代を彩る

 画家、千住博さんの展覧会「スペクトラム」がチェルシーに新しくオープンした画廊、サンダラム・タゴール・ギャラリーで来年1月15日まで開催されている。千住さんといえば、青を基調とした滝の日本画で有名だが、今回は、心機一転、カラフルで色彩に溢れた作品が並ぶ。春夏秋冬の四季を彩る黄色や緑、ブルー、赤といった今までにない色使い。何があったのか。

 「アトリエで40年間使わなかった絵の具が出てきて使ってみた」というのは千住さん一流の照れだが、本当は、今までとは逆に、滝の内側から外を見た時に世の中が色彩に満ちていることを伝えたかったからだ。

 「コロナだからこそ、この色彩豊かな作品を描いてみたいと思った。滝の内側から世界を見てみたら、こんな閉塞感に満ちていたと思われるCOVID-19 の時代だけど、なんて、世の中は色彩に満ちているのか。そうやっていつの時代も足りないものを補完していくのが、アートの役割だと僕は思う。例えば、クロード・モネやルノワールのあの温かい光に満ちた絵を描いていたのは、実はヨーロッパが第一次世界大戦の暗い時代なんですね。で、日本の狩野永徳が戦国時代に花鳥図を含む四季図を1枚にまとめて描いて秀吉に贈ったのもピース・メーキング・プロセスとして描いたわけです。四季は別々に描いたらいいじゃないかと思うじゃないですか。でもそれを平和創造として、利害関係が全く異なる概念がハーモニーを奏でることができる、これが芸術なんですね。今の時代に何が足りないかを考えた。それはやっぱり色彩だろうと。世の中でCOVID-19のようなものが山奥から引っ張り出されてきて、時に猛威を振るうのを改めて感じるわけです。東日本大震災の3・11の時もそうでした。

 こんなに色彩に溢れていることを見ることによって活力を得て、それがやっぱりアーティストからのメッセージだと思うんですよね。やっぱり人々が生きるためには美が必要。見て元気出して勇気もらって生きる力を回復して、それも自然が私たちに与えてくれている。自然の中で生かされているということです」と熱く語る。

 現在、シカゴ美術館でも大規模な展覧会が同美術館の安藤ルームで来年3月13日まで4か月間開催されている。コロナの先にあったのは鮮やかな色彩だった。

(写真)「滝の裏側から外を見た色彩に溢れた世界。コロナの時代だからこそ描きたかった」と絵の前に立つ千住氏(16日、写真・三浦良一)