絶望の恋人現代の写し絵

©Hiroshi Sugimoto/ Courtesy of Odawara Art Foundation

杉本文楽・曾根崎心中に満場の喝采

 ニューヨークを拠点に活躍する、現代美術家で写真家の杉本博司さん監督の人形浄瑠璃文楽「杉本文楽・曽根崎心中/ Sugimoto Bunraku Sonezaki Shinju The Love Suicides at Sonezaki」が、マンハッタンのローズシアターで19日から22日までの4日間にわたり上演された。
 リンカーンセンターで10月19日から11月24日まで開かれる「ホワイト・ライト・フェスティバル」のオープニングを飾る公演となった。
 同作は近松門左衛門の人形浄瑠璃「曽根崎心中」をもとに杉本さんが構成し、演出と舞台美術も手がけた作品。2011年に初演され、2013年にマドリード、ローマ、パリとヨーロッパでの公演で絶賛され、2014年に日本で凱旋公演が行われた。今回のニューヨークは、米国での初公演となった。
 米国での初公演について杉本さんは「自殺が強く禁じられているキリスト教世界において、心中により浄土に迎え入れられるというテーマが受け入れらたようです」と話した。

 現代美術作家、束芋(たばいも)さんの手がけた映像作品が舞台のスクリーンに映し出され、現代美術と伝統芸能が見事にコラボした素晴らしい舞台を作りだした。最後には黒衣も含め、出演者全員が舞台に立ち、観客のスタンディング・オーベーションで舞台を終えた。
 公演に訪れていた、マリア・ラビノビッチさんはJETプログラムで大阪の中学校で英語を教えている時に文楽と出会い魅了されたという。「音楽も人形も美しく素晴らしかった。ただストーリーには文化の違いを感じた。徳兵衛(心中をした主人公の一人)はなぜ問題にアジャストしようとしなかったのか」。また、今回、文楽を初めて観劇したというマイケル・カニストさんは「舞台はとても美しかった。私が最も感じたのは、時代や場所が違っても、悪徳商法や恐ろしい人々が繁栄する階級や特権により、絶望によって追い詰められる若い恋人たちは、私たちが暮らす現代となんら変わりのないことだ」と話した。
 今回の公演は、国際交流基金が米国において日本の文化や芸術を紹介する「Japan 2019」の一環。人形浄瑠璃文楽は、2003年にユネスコの「世界無形遺産」にも登録されている。(石黒かおる)