阿部寛さんに国際映画賞

NYアジア映画祭で「異動辞令は音楽隊!」

「受賞とても嬉しい」
俳優として西洋とアジアとの架け橋に

 ニューヨーク・アジア映画祭(NYAFF)で俳優の阿部寛さんが、日本で8月26日から全国公開になる新作「異動辞令は音楽隊!」(内田英治監督、制作幹事・配給・ギャガ株式会社)で「スクリーン・インターナショナル・スター・アジア賞」を受賞した。日本の映画俳優としてこの賞を受賞するのは同映画祭20年の中で初めて。

 阿部さんは、「アジアをテーマとしたニューヨークの映画祭で受賞してとても嬉しい。俳優として西洋とアジアとの架け橋になれたらいい」と喜びを語った。

 同映画で阿部さんは、地方警察バンドのドラマーとして駆り出される不機嫌な刑事役を演じている。仕事一筋の「昭和の男」が現代のコンプライアンス(法令遵守)の中で、パワハラの内部告発で第一線を外されながらも、不本意な職場で努力する中で、今まで顧みなかった家庭や家族との絆、第2の人生にもまた新たな幸せを見い出す中年男性の姿を描く。

 この映画は、日本に先駆け、同映画祭の会場となったリンカーンセンターでワールドプレミア上映された。授賞式のため来米した阿部さんは、内田監督と共に舞台挨拶し、会場を埋めた大勢のファンやニューヨーカーたちから大きな拍手を受けていた。

(写真上)舞台挨拶のため来米した阿部寛さん(7月22日、リンカーンセンターで、写真・三浦良一)

変化する社会や人生描く 内田
新しい第2の人生も素敵 阿部

 ニューヨーク・アジア映画祭が15日から31日までリンカーンセンターを中心に開催された。今回ワールドプレミア上映された内田英治監督の「異動辞令は音楽隊!」で、地方警察バンドのドラマーとして駆り出される不機嫌な刑事役を演じた俳優・阿部寛さんが、30年にわたるキャリアで培った多彩な才能、国境を越えた魅力、多様なジャンルに対応する能力を評価され「スクリーン・インターナショナル・スター・アジア賞」を日本の映画俳優として初めて受賞した。

阿部寛さんの話  

■ドラムスの経験がなくてドラマーの主役に=撮影の2、3か月前から先生について特訓を始めたが、簡単な動きができなくて、これに足があるのかと思うと愕然とした。本当に1か月くらいたっても手が馴染まなくて、やばいなと思っている時にバディ・リッチの雫が水面に垂れるような音に出会い、音の波紋がすごいなと思い、それまでただ乱暴に叩くだけだというイメージだったドラムスへの印象が変わり、本番中も練習してなんとか手足が揃うまでになった。1か月間、部活のように音楽と共に生活した体験は私の中で宝物になった。

■警察音楽隊の魅力=警察の仕事をしながら市民の笑顔に接することができる。見ている人たちにメッセージが確実に伝わる。これは警察の仕事として犯罪を防止する上で大切な仕事だなと思った。映画では、昭和の男の典型的な刑事が、音楽隊に配属されて「なんで俺が?」となるわけですが、以前、銀行に勤めていた仕事一筋の知人が、奥さんが倒れて、会社を辞めて介護して、ものすごく変わった。人って変われるんだなと思った。主人公の成瀬が練習場に歩いていく時にふと、思わず泣けた。自分の中で変わった姿に第二の人生も素敵だなと思った。

■アジア映画祭での受賞=ニューヨークでやっているアジアをテーマにした映画祭で賞をいただけてとても嬉しいです。アメリカで評価されるのは初めてで、俳優として西洋とアジアの掛け橋になれたらいいなと思う。海外の作品からのお声がかかれば、出たいという希望はあります。やれるかどうかわかりませんが。

■昭和の男から若者へメッセージ=日本だって(人生に)失敗してもセカンド・ステージもサード・ステージもあると思う。私も不遇な時代もあったし、プライドに凝り固まって打ちのめされたこともあるけれど、それがあったから一つ一つのチャンスにも巡り会え、エネルギーになっている。だから若いうちには、挫折がある方が強くなれるので失敗を恐れずに頑張って欲しい。

内田英治監督の話

■帰国子女の経験が作品に=10歳まで海外で育って11歳の時に帰国した。日本文化に慣れるのに戸惑った。昭和から平成、令和へと時代の移り変わりと共に社会の急激な変化があり、この映画でも中年が急激な変化の中で生きる姿を描いている。これからも作品を通し、世界からちょっと遅れをとっている日本が変わっていく部分を描いていきたい。

■映画祭で世界の人に=映画祭を通して、外国の人や海外の日本人に見てもらうチャンスが広がる。観てもらって映画なので、観客に親指を立ててグーのサインをしてもらうと作りがいを感じる。映画祭がなかったら、商業的にうまくいく映画しかなくなってしまう。

■コンプライアンス=映画の撮影現場は独特の気風の中で保守的な部分もあり、世界が問題意識を持っている中で、作り手の僕らが認識することが必要だ。