米国籍と永住権の大差を無視する国籍法

 外国籍を取得すると日本国籍が自動的にはく奪される国籍法第11条の違憲性や改正を求める二つの訴訟が進行中です。最近も原告側による記者会見やトークが開催されました。その中で認識すべきは米国籍保持者と永住許可証保持者の大きな違いです。

 国は裁判の中で「在外邦人は居住外国の国籍を取得する必要は必ずしもない」と主張します。しかし、外国籍が必要不可欠な人が多数います。就職、社会保障、相続などで不利。投票権がなく在留資格が不安定。国籍が異なる夫婦間で離散の不安がある。介護に親を呼び寄せられない等からです。

 米国の永住許可(グリーンカード)所持者が日本に帰国する際、親の危篤などで帰国が長引けば永住許可はく奪の可能性もあります。コロナ禍で日本旅券を持たない人に対する入国制限のため、日本国籍を奪われて「親の死に目に会えなかった」日本人が続出しました。

 社会保障でも米国市民と永住者の間には差別があり、しかもその差は広がっています。特に、高齢者になった時に最低生活ができるか、ホームレスになってしまうかという生死すら分ける実態があります。犯罪を犯しても米国市民であれば国外退去や強制送還とはなりませんが、永住者は有罪となりやすく、長い懲役刑で強制送還となりえ、永住許可は消滅します。

  米国で日本人夫婦から生まれた子供も3か月以内に国籍留保届けを提出しないと日本国籍を失うのです。

  必要に駆られて外国籍を取得した南部陽一郎、中村修二、眞鍋淑郎のノーベル賞受賞者各氏も日本国籍をはく奪されました。

 国は複数国籍の弊害として、外交的保護、兵役義務、納税義務の衝突などを挙げますが、税金は国籍ではなく所得発生国で課税され、他の理由も弊害になりません。

 今や日本の複数国籍者も100万人超と推測され、複数国籍に肯定的な国が150か国約77%と言われるのも以上述べた複数国籍の「必然性」を示しています。

 香港のサウス・チャイナ・モーニングポスト紙は「人口減少の危機に、自国民から国籍を奪う不可解な日本」と報じています。先祖代々日本人で日本の血が流れているのに、「日本人ではない」とされることに保守層が怒りを表すべきとの声も聞かれます。政府が国民の国籍を奪うという「反国益」を見直す時です。

 ふじた・ゆきひさ=慶大卒。世界的な道徳平和活動MRAや難民を助ける会で活動した初の国際NGO出身政治家。衆議院・参議院議員各二期。財務副大臣、民主党国際局長、民進党ネクスト外務大臣、横浜国立大講師等歴任。アメリカ元捕虜(POW)の訪日事業を主導。現在国際IC(旧MRA)日本協会会長。岐阜女子大特別客員教授。