日本でスパイが大暗躍

山田 敏弘・著
講談社+α新書・刊

 世界第3位の経済大国である日本は、敵国とみなされるライバル国に囲まれている。様々なビジネスで日本は常に世界との激しい競争にさらされている。そして、これまでライバル国のみならず同盟国ですら。スパイを日本に送り込み、機密情報を日本から盗み取ってきた。このように、日本は世界から喰いモノにされている。それが実態である。それにも関わらず、筆者の日本政府に「政府は仮想敵国からの脅威についてどれほど深刻にみているのか」という問いに対し「日本には仮想敵国はいない」即座に切り返されるという現状である。現在、世界を見渡すと、ほぼすべての国が独自の諜報機関を備えている。国家と国民の生命・財産を守るために、外部からの脅威などについてきちんと情報収集をするのは当たり前である。その中で日本には現在、外国のような対外諜報機関はなく、国境を越えたインテリジェンス活動能力は非常に低い。
 日韓問題や人質問題、テロなど日本のインテリジェンス能力の低さが招いた事件はたくさん起きているが日本はそれに対して無力である。そして、諜報機関は新たな時代に入っている。すべてに情報がデータ化され5Gも普及しだしてくる。そうなるとすべての情報が簡単に盗み出せるようになる。その危険はパソコン、スマートフォンやキャッシュレス決済など様々なところに潜んでいる。
 日本は対外情報機関がないばかりか、国内外で情報活動をできるサイバー工作組織も存在しない。その中で中国のような巧妙なサイバー攻撃をうけても誰も守ってはくれない。MI6の職員が共有する、ゼロトラストという考え方がある。つまり、すべて疑ってかかり、だれも信用しないということである。それが国際情勢の裏にある世界の常識なのである。対外情報機関も、国境を越えて動ける部隊もない日本は、これからの時代に本当に世界と渡り合っていくためには、異一刻も早く、その間について真剣に検討し、何をすべきかを議論すべきだと筆者の山田敏弘氏は力説する 
 同書を読み、日本のインテリジェンス能力、諜報機関がいかに世界に遅れを取っているかがよく分かった。日本人はさまざまな意味で「良い人」が多い。よく「性善説」という言葉を耳にするが、本書に記載の通りそれは世界には通用しない。情報を得るために身を犠牲にし、時には命を落とすということもある。そのくらい情報とは大切なものであり世界では「当たり前」なのである。日本が世界と渡り合っていくためにはより情報に対するアンテナを張り世界から「なめられない」仕組み作りが必要だと痛感。
 筆者は国際ジャーナリストで米国ネバダ大学ジャーナリズム学科卒。講談社、ロイター通信社、『ニューズウィーク』どで活躍。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)などがある。(渡部将也)