「二人の母」が切り拓く未来 クィアの美容師 細野まさみさん

 多彩な個性が集まるニューヨークの美容界で、独自の存在感を放つ美容師がいる。イーストビレッジでサロンを経営する細野まさみさん。自身もクィアとして、性別不問の一律料金など、誰もが自分らしくいられる空間を生み出してきた。そんな細野さんは昨年、イギリス人の女性パートナーが精子提供を通して出産したことで一児の母となった。「二人の母」としての現在地、そして歩む未来に迫った。

 丁寧かつ速いカット、くせを生かしたスタイルが評判の細野さんのサロン。SNSで育児の発信をするようになり、客層もクィアの親が増えるなど変化が現れている。母になり、仕事への向き合い方は変わったのかを問うと、確かな実感を込めて言葉を紡いだ。

細野:「以前はサロンを大きくしたい『夢』がありましたが、子どもが生まれたことですべて打ち壊され、尖っていたものがなくなりました。地位を築くためではなく、おむつやデイケアなど『この仕事が家族の生活を支えている』と思うと、一人ひとりのお客さんへの感謝の気持ちがより大きくなりました」

 人種も性も多様なニューヨークに惹かれ2012年に移住。当たり前のようにLGBTQの人たちが共存している姿を見て、自身のアイデンティティに自信を持てるようになった。 出産までは数々の壁があったが、乗り越えた経験は家族の愛と絆を深めたと語る。一方で、日本へ戻る可能性を問うと細野さんは表情を曇らせる。

 細野:「戻りたくても、いまの日本は法律上結婚できません。アメリカでは家族ですが、日本では法的に認められず、異性愛の国際結婚の夫婦であれば認められる権利や制度を得られないんです」 

 また、日本へ旅行した際には、複雑な思いを抱いた経験もある。

細野:「娘と二人だと、無意識に『父親は白人男性だろう』と想定されることがあります。家族でいても、パートナーに対して『お友達ですか?』と聞かれ、『家族です』と答えても、相手は困惑していましたね」

 故郷の現状に葛藤を抱えつつも、未来への希望を次世代へと託す。

 細野:「Z世代やアルファ世代に期待しています。若者たちは政治や社会問題をタブー視せず、SNSで世界中と繋がっています。国境を越えてミックスされている世代の子たちに、これからの社会を変えていってほしいです」 

 自身も日本語での発信を続け、「同じ立場の人たちの希望になれたら」と願う細野さん。いまの夢は、いつか6月のプライドマーチに家族3人で出かけること。多様な愛が街を彩るそのパレードのなかに、家族の歩む未来が待っている。 (川﨑理加、写真も)

【ことば解説】クィア=同性愛者などを含む既存の性の枠組みにとらわれない多様な性のあり方を持つ人々の総称。