海外有権者の声、国政に届くか

在外選挙座談会

デジタル庁でネット化加速?


出席者

● 竹田 勝男 氏

(海外有権者ネットワークNY共同代表)

● 竹永 浩之 氏  

※(オンライン参加)

(海外有権者ネットワークNY共同代表)

● 武末 幸繁 氏

(ジャーナリスト、元OCSニュース編集長)

● 津山 恵子 氏

(ジャーナリスト、元共同通信NY特派員)

司会・三浦良一(本紙発行人)


本紙 日本でも短期決戦、在外選挙はさらに時間がない今回の衆議院選挙、どんな意味が?

津山 近年にない非常に重要な選挙。どの政党かどうかの政治的信条は別として非常に真剣に日本の将来のことを考えて、投票に行って選ばなけれならない。その理由として:・コロナ対策が後手後手、オリンピック最中に自宅で亡くなった方がたくさん居る・一年間で子供の自殺が過去最高・先進国のなかで唯一25年間不景気・ジェンダーギャップ指数156か国中120位(世界190数か国しかない中での日本の酷さ=世界の半分よりも下にあると言ってもよい)このような課題がある中で、この先変えない? 変えていくのか? ならば議員の政策などチェックして投票する。

竹永 今まで経験したことない在外選挙2つの理由:1、任期満了に伴う選挙はこれまでない。2、解散から投票までがこんなに短い選挙は在外選挙ではない。郵便投票の混乱が起きている。情報収集する時間もない、なかなか届かない。在外公館投票の日数も短い、これまでそんなことなく、1日だけというのもあり、2日間もあり(ノルウェー、フィンランド、スペインは大使館のみ)。届いても選管側が発送日を勘違いしている。解散日を待っていたが、10月19公示日を基準とするため、郵便投票が間に合わない人が相当出てくる。9月に郵便投票を世界中で告知したが、選管でホールド。今頃送りだしているが間に合わないことで問題が起きている、これに対しては時間がなさ過ぎて解決策もない。EUが荷物を送るのに2WKS(エクスプレスでも)。だから郵便投票は間に合わない、不可能になる人が出てくる、既に出ている。アメリカはまだセーフだが、EUは危ないところ。

ニューヨークの在外選挙投票会場 (20日午前10時過ぎ、NY日本総領事館で本紙撮影)

竹田  皆さん仰る通り、準備期間があまりにも短い。政権担当の戦略かな?と思うくらい。前回54%投票率、今回はそれを下回る予想というニュースを見て、少しでも投票率をあげるためにも今回の座談会を提案した。

武末 日本の大きな転換、考えるための選挙だ。安倍政権の継承に対する審判になるのでは。野党側から見ればチャンス。現在の在外選挙投票に無理がある。早くなんとかすべきだ。

本紙 デジタル庁ができたことで、インターネット投票に弾みがつくか。

津山 在外選挙の壁は手続きが煩雑で、公館が遠すぎるとか。海外に住む有権者にとってもせっかくなので、考えてもらいたい。

竹永 在外選挙ネット投票について2017年に決めた(2015年には資料記載)。去年実証済なのになぜ?もっと早くできたはず。部分的にも導入できたのでは。総務省は在外投票から始めると言っていたが中々進まない。

竹田 前回までインターネット投票を押していたのは民主党の藤田さん。現状は分からないが、強力に押す政治家がいなくなると結局は立ち消えになるのでは。最後の一手は政治力になるのでは。

武末 立憲民主党はかなりやる気あるのでは?

竹田 最近はデジタル層である若年層が海外に住んでるケースが多い、デジタル投票にすれば、投票率が上がるのでは。

竹永 立憲民主党案は2025年国政選挙で取り入れ予定。おそらくその法案を待たなくても在外選挙に関しては前に進められるのではと読んでいる。次の議院選、2022年には何らかの形で取り入れてほしい。

本紙 その声は政治家に届いてる?

竹永 どの政治家による。

本紙 海外にいると政治家の活動がよく見えない、手だては?

竹永 総務省で研究会を作った人、自民党の小林さん(広島、若い方)の指示で、在外オンライン投票導入決まったはず(TWでやり取りした)だが、自民党全体の考えが見えない、強く反対している人がいるのかどうかは分からない。

本紙 実際解決できる?民主党は海外へ出向き声を拾っていたが、与党が動かないとアイデアは出ても20年以上たっても投票自体の状況は変わらない。

武末 野党にとってはチャンスとなるのではないか。ネット投票に対して、政治家に慎重派多いのは間違いない。単純に若い世代の投票率が上がるとかだけでなく、票田、地盤、選挙運動のやり方自体が変わったりと大きな変化があるのでは、だから在外を先にやらせるのでは?

本人確認が課題
マイナンバーの実現性は

在外選挙認証

本紙 公職選挙法は国内法なので海外での選挙違反を取り締まれない。確実な個人確認ができる切り札であるマイナンバー制度導入の実現性はあるか?

竹田 マイナンバーは、確かに管理は難しいかもしれないが、海外は都合のいい実験台と思う。まずは海外で試してもらいたい。

本紙 在外選挙は国内の住民票を抜いた人の権利、マイナンバーは日本在住の住民票に基づく発行だから海外の有権者はマイナンバー持ってないという制度上の齟齬(そご)が発生している。それをどうクリアするかだ。

竹永 2019年デジタル手続法案、海外在住者にマイナンバーをあげる法案はできてる、だけど2024年までの施行で止まったまま。

武末 デジタル的な技術的な問題は殆どクリアされてる。選挙人名簿台帳みたいなものをきっちり作ってしまえばむしろ不正行為が避けられる。それもネットの良さ。ただ、よく言われるのは、皆で集まっているところでの投票や、システムをよく分かっていないおじいちゃんの端末を教えてる息子が押してしまうとか、結局本人投票ではないようなこともなくもなさそうだが、重箱の隅をつつくようなもので不正とは言えない。

本紙 在外選挙での投票率の低さ、改善策は?

津山 在外選挙人証をワンストップで取れるようにしないと。最初でつまづいてるひとがおそらく5割以上いるのではないか。

武末 その通り。近くに領事館がない人にはとても不便。

本紙 投票率が上がらないのは、直接的に自分たちに関係のある法案などが出ないから?

武末 海外にいると直接的に関わることは少ないけど、少子化の問題など、日本にいる若者は大丈夫?若者が損をしているのでは。

政治に関心を持たなければならない;安倍政権継承のままでよいのか、経済が死んでいっている。女性の国会議員が少ないなど、あらゆる面で遅れている。今年に入ってから二重国籍問題も時代が求める方向に進んでいない。在外の当事者が声をあげていかなければならない。そういうことを変えていくのも在外としての使命。

投票でしか国を変えられない

竹永 在外選挙に関わって30年の経験から有権者に対して言いたいことがある。日本人は自分で社会を変えられると思っていないのが問題。アメリカの大統領選を通して、社会の変え方を知った。2〜3時間並んででも投票するアメリカ人、近くに投票所があっても行かない日本人。在外投票率1%台はどういうことか。

津山 私の友人もアメリカ大統領選のときはユニオンスクエアで11時間待った。日本のメディアにも責任がある、とくにメインストリームの全国紙やNHK。総裁選に対しての報道ぶりがみっともない

武末 1党内の選挙なのにまるで国の選挙みたいになっちゃってる。政権交代ではなく、自民党がメイン。

本紙 有権者にも問題意識・参加意識が必要ということか。

竹田 同意。入口のところが問題で、海外に住んでいるひとが選挙に参加しやすくするのが一番よい方法。一番の理由は門であり、それを開いてほしい=制度をしっかりしてほしい。ついでに、津山さんの仰った通り、皆さんが言ってる成長と分配。30年間デフレ、成長なくGDPも同じの日本。その間に中国はGDP40倍の成長率。隣の中国が成長してる間、一番の貿易国は日本だったのになぜ日本がそのままで来てしまったのか?白川前日銀総裁のデフレ政策?誰が何が悪かったのかは分からないが、改善が必要、成長しないのあれば、国民が議論して幸せになるように分配の姿勢に変えていかなければならない。選択の分岐点にある。

竹永 どうやって制度をやりやすく、変えるのか。それは有権者が自分で動かす、自分の票の力を使って社会を動かさなければ何も変わらない。投票率1%台では政治家は身向きもしないし、何も変わらない。

武末 日本の政治が変わらない、それがそのまま経済政策にリンクしている。例えば資産課税

本紙 制度が難しいのは分かったが、有権者の投票意識の希薄さについてはどう思うか

津山 2つある。1、(先述の)メインストリームのメディアがきちんと報道すること。2、30年間、負のサイクルである日本経済、その結果貧困層が増え、情報の格差にも繋がっていること。

竹田 やはり政治力が大事だが、NHKニュースを見ていて一番目についたのが、30歳前後の母で母子家庭でごはんが食べれない。バブル後、生まれた人たちは一度もいい思いしていないで今日まできている。それに対して政府援助も何もなく追い詰められていく。その例をもって本当に考えないと何もよくならない。

武末 ロストジェネレーションと言われる人たちが中年になった。この間、消費税が上がり、法人税は下がった。そういった形で大企業は存続させつつ一般国民に負担させて生き延びている日本、ジリ貧で沈没していく日本。このままでは優秀な人たちが海外に出て行ってしまう。海外に出るのはいいが、出っぱなしではなく、その経験を日本にフィードバックするというような意味でも、二重国籍の問題なども含めて考えていなければならない。

本紙 海外の有権者の声を代弁する政治家はいるのか

竹田 そんなにいないのでは。

津山 デフォルト(基本形)で日本でも日本人しか住んでないみたいな意識がある。お役所で住民票を抜いた時に、一言でも在外投票の案内があったらいいのに。今回もNY領事館からの選挙に関しての手続き案内でも、日本に行ったり来たりしないとみたいなことしか載ってなく酷い。

竹永 津山さんが話された在外投票案内に関しては役所によってあったりなかったりするから、総務省か何かに言った方がいい。

本紙 昨年、コロナ禍での一律給付金を海外在住者にも配布をというような声があったのにも関わらず、結局配布までは至らなかった。海外の声をきちんと上げて海外の声を代弁する人が必要だ。そして審議の是非も含めて、だめならだめで「それはこういう理由でできませんよ」と海外の有権者に説明する人なり党があってもいいのではないか。このコミュニケーション不足は何とかならないのか。「在外選挙」は投票する人、される人の双方でさらに改善の余地がある。

 本日はありがとうございました。     おわり

(この座談会は18日にNY日系人会ホールで開催したものです)

(関連記事)海外有権者の声