性差別なき日本へ行動を

NYから世界へ


JAAビジネスウーマンンの会

 JAAビジネスウーマンの会(JWB)主催、ニューヨーク日系人会支援ウェビナー「世界で活躍する女性が見る『ジェンダーギャップ、ゼロ』の姿とは」が、3月26日夜オンラインで開催された。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元会長・森喜朗氏の女性蔑視発言をきっかけに世界で報道された日本の「ジェンダーギャップ」。国内では、森発言をきっかけにさまざまな分野の専門家から現状打破の声が上がった。その一つである「差別のない活力ある日本を作るために・行動宣言」の呼びかけ人42人のまとめ役となった中満泉さん(国連事務次長・軍縮担当上級代表)と、本田桂子さん(コロンビア大学国際公共政策大学院客員教授、元MIGA長官)をパネリストに迎え、ジェンダーギャップの問題を解説した。ウェビナー冒頭JWBの長谷川久美子代表が挨拶し、当日は国際ジャーナリストの津山恵子さんがモデレーターを務めた。

行動宣言作り発信

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津山 森発言の何がいけなかったのか。

中満 その場で声をあげて正す声がなかったことが悲しい。その場で声を上げられるほど女性の数がいなかった。クリティカルマスは日本の社会にはまだまだない。問題発言を正すには数を増やすことが重要だ。

本田 批判と非難はできるが課題に対して解決策がなかったので提案するために個人賛同者を募った。社会的リーダーが個人で参加してもらうと広がりが出てくる。約40人の中に一部上場の社長が7、8人いる。経団連は「チャレンジ30」というタイトルで2030年に女性役員の比率を30%に高める動きがあり、今は一割もないが、すでに60数社がこれに賛同している。予想を上まわる進展がある。

津山 行動宣言を2人で起草されました。

中満 男女平等は国連では当たり前のこと。日本からの講演会の招待などで自分一人が女性なら主催者にジェンダーバランスの観点から女性を増やすように働きかけている。国連のルールでは男性幹部が男性だけの場で登壇・発言してはいけないとなっている。日本ではまだ会議や講演で女性を入れなくてはならないということが悪意ではなくて普通のこととして思いつかない。そこに一言声かけて、批判するのではなく対話を通じて呼びかけていく。そしてこれまでの社会で、これはおかしかったんだと気がついてもらう波及効果を求めていく必要がある。

津山 これを日本の企業がどう変えていけるのか。

本田 大手企業が賛同すると、我もと追随する企業が出る。正しいボタンを押すことで女性の管理職を増やしていくことが大事だ。人口が減少していて、日本の企業は特定年齢層の男性にリーダーを頼っている。労働人口に占める45歳から49歳の男性は2021年495万人いるが、現在就活している20代がその世代になる時には317万人と38%も現在より少ない。パイが減った中でリーダーを選んでいくのは企業としてもリスクがある。女性を育てなくてはならない。日本人女性の25歳から59歳までの85%が働いている。米国は78%だ。専業主婦はマイノリティだ。60歳から64歳の女性の半数以上が働いている。文系でもシステムエンジニアなど理系と思われている職業でもやっていける。家事と育児に投資を。毎月、洋服1枚買うのを諦めてベビーシッターにお金を使ってもらいたい。どうせ長く働くなら管理職を目指してチャレンジしてほしい。

女子は管理職挑戦を=本田

津山 米国では主婦の仕事をほかの人に頼むのは当たり前ですね。

中満 人に頼ってするのは当然やってもいいこと。働く女性にとって大変なのは、早退する時の肩身の狭さなど精神的なプレッシャーだ。スウェーデンに5年住んで痛感したのは仕事の仕方を変えていかないとならないということ。今はリモートでオフィスワークをするのは全く問題ないので、拘束時間ではなく成果をどう出せているか仕事の仕方、働き方そのものを変えていかなくてはならない。子育て中の女性の方が効率的、効果的に仕事をしている。日本の組織文化を変えていく必要がある。

津山 時短以外にギャップを減らす対策はありますか

本田 女性の管理職を増やすのが一番。育休を取るより生産性をあげること。エクスペクテーシンマネージ。子育てや家事でどうしても必要な場合が分かっていれば2か月前に「その日はだめ」と言えば誰も怒らない。しきりが大事。当日直前に言えば他のチームの人には大迷惑でしかない。企業で物事を決める立場の人の中に一定のワーキングマザーが入っていくことが大事だ。MIGAに着任した時の管理職の割合は25%くらいだったが、50%まで上げながら事業規模は2倍強にすることができた。生産性を上げながら女性がリーダーシップを取ることもできる。

津山 お二人は世界で活躍する女性のトップを極めた方ですが、私みたいなふつーの女性でもできることはなんですか?

中満 女性同士の情報サポート、味方を作っておく。仕事と子育ての両立は、私の場合、台所にファミリーカレンダーがあり、1週間分の晩ご飯のメニューを作ってそれに合わせて買い物をする。計画性を持たせることで両立は可能だ。「女性を増やせ」は、女性が高下駄を履くのではなく、生まれた時から高下駄を履いている男性に脱いでいただくようきちっと声に出していくことが社会全体を変えていくことになる。

津山 声に出すは言葉で言うと結構簡単ですけど、実際に恋人や夫に、こうして欲しいと口に出して言うのは当時者にとっては結構大変なことなのではないか

中満 パートナーは選択して気をつけて選ばないといけない。攻撃的にではなく誠意をこめて一緒に解決していくことが必要だ。

本田 恋人や夫にものがいえなければ上司にも言えない。社会参加することが大切で、自分をより高めることができる仕事をなるべく早い時期に考えること。自分を信じて、ちょっと背伸びをしてできる仕事にチャレンジすることが大切だ。日本で男性の育休への理解が低いのは分かるが、何をプライオリティーに置くかが大切。育休は男女共同参画で100項目近くある中の一つに過ぎない。育休がプライオリティーの一番ではない。夫が2週間育休を取ったからといって何も変わらない。私はお給料が残らないほどベビーシッターを雇った時期もある。

中満 私は2人娘がいるが、スウェーデン人の夫はそれぞれ4か月ずつ育休を取った。それは自分と子供との関係を作る上で必要だったと本人は言っている。子供との密度の濃い時間を重要だと思う男性はいる。色々なオプション、選択肢の多い社会になればいいなと思う。男性が育休を取ったからといって非難の目で見られるような社会ではないようにしたい。

津山 ご自分の娘さんの子育てで感じたことは

本田 自分が大学を出た頃の就職状況は、雇用機会均等法の前で多くの企業が「4大女子下宿応募不可」だった。自分の子供にはどんな状況下でも職業の選択ができるような子供に育てていかなくちゃいけないと強く思った。できることは教育や子供に社会を伝えることと、あとは子供に尊敬してもらえるような仕事をしたいと思った。

中満 自分がこれをやりたいと思ったことを問題なくできるような社会にしたい。娘たちは日本に行くと違和感を感じるようで、映像のイメージのところでの女性の描かれ方にも違和感や疑問を持っていて、日本は大好きだけど自分は日本に暮らしている女性でなくてよかったと聞くととても私は悲しいので、そういう社会を変えていきたい。

政治の場に女性増を=中満

本田 (質問で与党で活躍する女性議員にも女性差別をする男性側に立っている議員がいるとの指摘について)多様性もあると考え、選挙権を行使しながらサポートすることが必要だ。在外投票でもよく調べて、いろんな考えがあると言うことは是認しなくてはならないのではないか。

中満 日本は世襲制度の強い政治風土を持っていると聞く中で女性議員を増やしていくのは簡単なことではないことかもしれないが、文句を言っているだけではダメだ。行動を考えていく。考える時期に来ている。議員の男女比率をクオーター制にするのも比例制のところで導入を考えることができるのではないか。

津山 アジア系女性として不快なことを言われたり、されたりした時に同じ人間だということを分かってもらうにはどうしたらよいか

本田 少なくとも働く場においては人種、性差別に非常に敏感になっている。何か気になった時には、大勢の前ではなく1対1の場面で「あれはどういう意味ですか」と聞いてみる。誰もがオブラートに包んだ言葉になるとリスクを背負って必要な忠告や耳に痛いことを言ってもらえなくなる。こちらが度量深く自分に自信を持っていれば受け止め方も違うのではないか。

中満 差別はその場で間違ったことなんだと対話で伝えることが重要。それと最後に一言貧困について。日本ではシングルマザーの平均年収がドルに換算して2万ドル、困窮家庭のほぼ全てがシングルマザーだ。構造改革するためには政治、行政、民間の場に自分のこととして考える女性がいることが大切。困窮している人たちにとって優しい社会は自分にとっても優しい社会。そういう社会を作っていくことがウインウインだ。決して(誰かが得をすれば誰かが損をする)「ゼロサム」ではない。

津山 ジェンダーに関係なく、差別される側の立場に立って、想像力や共感をすることであらゆる不公平、不公正が解消されていく道のりになるということですね。本日はありがとうございました。